電子機器を開発して販売する場合、電子機器から発生する電磁波の影響を確認するEMC試験を行う必要があります。本記事ではEMC試験が必要な理由や、代表的なEMC試験の内容についてご紹介します。
複数の電子機器が近場にあっても、互いに電磁的な影響がなく正常動作する性能のことをEMC(電磁環境両立性)と呼びます。EMCは、機器から発する電磁エネルギーの大きさに関するエミッション性能(EMI)、外部の電磁エネルギーからの影響の受けにくさに関するイミュニティ性能(EMS)の二つに区別されています。
EMC試験は、電子機器が発生する電磁波が別の電子機器に影響を与えないか、別の電子機器が発する電磁波で自身が誤動作しないかを確認する試験です。電子機器を販売する場合、販売する国や地域で定められたEMC規格や、製品別に定められたEMC規格に合格しなければなりません。
IEC(国際電気標準会議)が定めたEMC規格のガイドラインでは、個別の製品ごとに定めた製品規格、全製品を対象とした共通規格、具体的な試験方法を規定した基本規格があります。この三つの規格は製品規格、共通規格、基本規格の順に優先されるため、製品規格の要求事項を満たすことを一番に考える必要があります。
代表的なEMC試験の内容や目的についてご紹介します。各EMC試験の内容は、実際に電子機器に起こり得る電磁波の影響を想定しています。各試験の規格は年々改訂されており、最新版の動向を把握しておくことが重要です。製品開発の際は機器に該当する規格を満たせるよう設計を検討しなければなりません。
機器の電源線や通信線を伝わって外部に伝搬する電磁波を計測し、規格値を超えていないか確認する試験です。工業向け機器や家庭向け機器などの使用環境や、周波数帯域によって規格の限度値が異なるため注意が必要です。
機器から外部の空気中に放射される電磁波を計測し、規格値を超えていないか確認する試験です。試験対象となる機器以外から放出される電磁波の影響がないように、電波暗室にて試験を行います。電磁波の強さは距離によって変化するため、3mまたは10mの距離で電磁波を測定します。
人体が機器に接触または接近したときに発生する静電気の放電で、機器が誤動作しないことを確認する試験です。静電気を発生させる放電ガンを機器に近づけて試験します。ケースやネジなど機器の金属部分に行う接触放電と、スイッチなど機器の非金属部分に行う気中放電の2種類の放電方法があります。
テレビやラジオ、携帯電話などから放射される電磁波で、機器が誤動作しないことを確認する試験です。電波の反射が発生しない電波暗室内にて、アンテナから機器に向けて電磁波を放射して試験します。
コイルのような誘導性負荷やリレー接点の開閉によって発生する過渡的な電圧変化によって、機器が誤動作しないことを確認する試験です。電源ポートと信号・制御線ポートで規定値が異なるため注意が必要です。
電力系統のスイッチングや雷などで発生する急峻な電圧変化によって、機器が誤動作しないことを確認する試験です。電源ケーブルや信号ケーブルにパルス電圧を印加しますが、ライン-ライン間(L-N)やライン-アース間(L-PE、N-PE)の2通りで印加します。
テレビやラジオ、携帯電話などから放射される電磁波が機器に接続されるケーブルに作用しても、機器が誤動作しないことを確認する試験です。ケーブルとアース間に電圧を印加して耐性を評価します。
電源周波数の電流や変圧器から発生する磁界によって、機器が誤動作しないことを確認する試験です。機器に対してX軸、Y軸、Z軸の3軸方向にコイルを配置し、磁界方向を変えて試験します。
電源系統の故障や負荷の変化によって起こる電圧ディップ、瞬停、電圧変動によって、機器が誤動作しないことを確認する試験です。電圧ディップは0%、40%、70%の電圧低下を確認しますが、短時間停電は0%に電圧が落ちた状況を試験します。
電気機器を販売するには国や地域ごとに定められたEMC規格、製品ごとに定められたEMC規格に従う必要があります。EMC試験は機器から発生する電磁エネルギーが基準値を超えるか確認するエミッション試験(EMI)、外部から受ける電磁エネルギーへの耐性を確認するイミュニティ試験(EMS)の二つに分けられます。
機器を設計する際は対象となる規格や試験内容を事前に確認し、試験を満たすよう設計しなければなりません。また市販の機器を選定する際は、使用目的に応じて機器が対応している規格を確認すると良いでしょう。