本記事ではパワー半導体の普及を促進する最新の技術開発事例をご紹介します。
半導体需要が高まる中、世界中で注目を集めているのがパワー半導体です。パワー半導体は従来の半導体よりも効率的で、より生産性の高い製品開発が進むと期待され、海外はもちろん、国内でも技術開発が進んでいます。
パワー半導体とは、従来の半導体に比べて高い電圧と大きな電流を扱うことのできる半導体を指します。そもそも半導体は、電気を通すだけでなく電気を止めることもできる器用な性質を持っており、電気を自在に止めたり流したりすることで、さまざまな役割を果たすことができます。
ただ、半導体はその器用さの反面、あまりに大きな電圧や電流が流れると、簡単に壊れてしまう繊細さも有しています。
そんな半導体の弱点を大幅に改善したのがパワー半導体で、大きなエネルギーも扱えるようになったことで、従来よりもパワフルなモーター駆動を実現したり、耐久性に優れる家電製品を開発したりする上で注目を集めています。
また、従来よりも省エネ性に優れ、パワー半導体を搭載したロボットや工業機械を導入することで、大幅な生産性向上が期待できることから、消費者はもちろん、企業からの注目度も高まっています。
パワー半導体がパワフルな活動を実現する上で、現在さまざまな材料が試験的に採用されています。電力の損失や発熱を抑える上で期待されているのが下記の材料です。
シリコンは半導体の材料としては最もスタンダードな材料で、シリコンなくして半導体は作り得ないといえるほどです。
半導体の材料として採用されてからの歴史は長いものの、まだまだ性能向上の余地や低コスト化の可能性を残していることから、今後もパワー半導体の主要材料として採用される可能性は高いとされています。
シリコンカーバイドは、シリコンと炭素から生成される化合物半導体です。通常のシリコンに比べて絶縁耐圧性能が高い点が評価されており、シリコンの苦手とする高温環境下でも動作することが確認されているため、パワー半導体の主要材料となることが期待されています。
現在は大量生産に向けた応用研究が進んでおり、実用化の道を確実に歩んでいます。
窒化ガリウムもシリコンカーバイド同様、シリコンに比べて絶縁耐圧性能に優れているのに加え、熱伝導にも優れていながらオン抵抗は小さいなど、優秀なパフォーマンスを発揮します。
シリコンに比べて小型化の余地も多く、パワー半導体として採用された場合には製品全体の小型化や、量産の際の低コスト化にも役立つと期待されています。
酸化ガリウムは、今回ご紹介している材料の中では最も新しい材料として注目されています。
その新規性の高さから多くの研究者がこの材料への関心を抱いているものの、熱伝導率の低さや放熱性の面でシリコンと比べてパフォーマンスが悪く、これらの問題をどう改善するかが今後の焦点となります。
ダイヤモンドは、昔ながらの優秀な材料として世界中で注目を集めています。
上記でご紹介したシリコンカーバイドや窒化ガリウムよりも高い絶縁耐圧性能を誇り、パワー半導体の材料としては極めて理想的な性質を備えています。
ただ、ダイヤモンドは希少性が極めて高く、奢侈品としての需要もあるため、パワー半導体の材料としてはあまりにコストがかかりすぎるという問題を抱えています。
パワー半導体開発の取り組みは世界中で行われており、日本も例外ではありません。
上記でご紹介した新素材の量産体制の整備や、新素材そのものの性能を高める技術開発など、各組織で独自の強みを生かした取り組みが見られます。
豊田グループの総合商社である豊田通商株式会社と関西学院大学は、2021年6月にシリコンカーバイドの基板が持つ欠陥を無効化する技術「Dynamic AGE-ing(ダイナミック・エイジング)」を開発・発表しました。
シリコンカーバイド基板は、パワー半導体の有力材料とされてきたものの、結晶の欠陥によって半導体性能が損なわれる課題を抱えていました。しかし今回の開発プロセスでは、高温環境でケイ素と炭素の原子を放出・吸着させ、切断面の凹凸などを除去した上、窒素を結晶に添加することで、欠陥を無害な構造に変化させることに成功しています。
独立行政法人の産業技術総合研究所は、2021年3月より昭和電工株式会社をはじめとする基板(ウエハー)メーカー17社や公的機関3機関と連携し、シリコンカーバイド基板の量産化に向けた共同研究を開始しています。
今回の研究で力を入れているのが、シリコンカーバイドのインゴット(塊)を作る工程から基板化までの工程の低コスト化です。そのための材料や装置、プロセス技術を持った企業らが連携することで、省エネルギー化も実現できる、新しい加工技術の確立を目指しています。
半導体の研究開発を担う株式会社ノベルクリスタルテクノロジーは、2025年を目標に100ミリメートルの酸化ガリウムエピウエハー(エピ基板)を、年間で2万枚量産できる体制を整えると発表しています。
本社工場に酸化ガリウム単結晶基板の製造・加工用設備や検査設備、ウエハー上に酸化ガリウムをエピタキシャル成長させる成膜装置を導入することで量産化を進める予定で、設備投資額は20億円にのぼります。
今後はより大きな6インチウエハーの量産化に向けた技術開発も進めるとしており、パワー半導体需要を見越した大規模な設備投資と言えます。
パワー半導体は画期的な新技術として注目されていますが、それを支える技術開発も不可欠です。日本国内でもすでに各社で半導体開発に向けた独自の取り組みを進め、革新的なテクノロジーの普及を目指しています。
まだ本格的なパワー半導体の普及は進んでいないものの、私たちの普段の生活でお世話になる半導体がパワー半導体に置き換わる日も、そう遠くはないでしょう。