前編・中編に引き続き、世界経済フォーラム(以下WEF)がインダストリー4.0の模範となる工場「Lighthouse(灯台=指針)」として認定した16の工場の内の残り7工場を紹介します。 前編・中編では大手企業の工場の紹介が主でしたが、本稿には数百人規模の中小企業ながらもインダストリー4.0の模範となる生産体制を整備している工場も含まれています。
BMWグループのドイツ・レーゲンスブルク工場は自動車工場です。 2018年には32万台の車を生産しました。レーゲンスブルク工場はBMW独自のIoTプラットフォーム「OMP (Open Manufacturing Platform)」を導入し、 3000台以上の機械や設備、ロボットなど全体を一元的に管理し最適化できる輸送システムを構築しました。 これにより物流プロセスを簡素化し、物流効率を大幅に改善することに成功しました。その結果、物流コストを大幅に削減でき品質不良も5%削減しました。
ダンフォス社 中国・天津工場は冷蔵庫、エアコンやその他製品に使われる業務用コンプレッサーを生産しています。 この工場ではデジタルなトレースシステムやスマートセンサー、外観検査、自動監視システムなどのツールを導入し、品質管理の向上に取り組みました。 その結果、2年間で従業員の生産性が30%向上し、顧客クレームを57%削減することに成功しました。
フォックスコン社 中国・深圳工場はスマートフォンや電子機器の部品を生産しています。この工場ではAIと組立作業ロボットFoxbotを導入し、製造ラインの自動化を推進しました。 自律的に製品を生産するだけでなく、自律的なメンテナンスも実行可能となっています。その結果、生産効率を30%向上させることに成功しました。
Rold社 イタリア・セロマジォーレ工場は食洗器や洗濯機のふたロック装置を生産しています。
WEFによって「Lighthouse(灯台=指針)」として選出された16の企業の中では唯一の中小規模の企業です。
工場の製造ラインの機器にはセンサーが設置されており、常時機器からデータを収集しています。
そのデータを利用し、機器の不調など緊急事態が発生した際にはタッチスクリーン、スマートフォン、スマートウォッチに通知が届くようになっています。
また、3Dプリンティングでプロトタイプを作ることによって、製品を市場に届ける期間を短縮することに成功しています。
サンドビック・コロマント社 スウェーデン・ギモ工場は切削工具を生産しています。
この工場では、デジタルスレッドを実現することで生産性を大幅に向上することに成功しました。
デジタルスレッドとは、データやプロセスの処理の流れをデジタル化し、ネットワークを経由して情報の流れを一貫させる仕組みのことです。
これにより製品の設計パターンを、人を介することなく完全自動で切り替えることが可能となり、顧客から注文を受けて数分で、カスタマイズした製品を生産する体制を整えることができます。
WEFからはマス・カスタマイゼーションの先駆けとなる工場として認定されました。
サウジアラムコ社ウスマニヤのガスプラントは世界最大級の天然ガス加工処理プラントです。 このプラントではドローンを使用してパイプラインとガスプラントの機器や設備を点検しています。 これにより点検の時間を90%、コストを10%削減することに成功しました。 また、ガスプラントを点検する作業員用にディスプレイ付きのデジタルヘルメットを配備し、機器の点検・修理をより迅速・効率的にできるようにしました。
タタ・スチール社のオランダ・アイマウデン工場は製鉄工場です。 この工場ではAIを活用し、60のパラメーターから製鉄の状況をモニタリングしています。 これにより、従来よりも効率的かつ安定的に製鉄できるようになりました。 また、社内にデータサイエンティスト養成機関「Advanced Analytics Academy」を設置し、収集されるデータを活用することで効率的な製鉄を可能にする体制を整備しました。
世界経済フォーラム(WEF)がインダストリー4.0の模範となる工場「Lighthouse(灯台=指針)」として認定した16の工場を前編・中編・後編に渡って紹介してきました。 どの工場もインダストリー4.0の技術を導入することで従来よりも効率的で安定した生産体制を構築することに成功しています。 現状、まだそのような体制を築けている企業は多くはありませんが、今後着実に増えてくることでしょう。