かつては“コストセンター”と言われることもあった情報システム部門。しかし、情報社会が当たり前のものとなり、さらにグローバルで勝ち残るにあたってのDXの重要性が叫ばれるようになったことで、その扱いは大きく変わりました。
そんな中で情報システム部門やIT部門を定義しなおし、新たな呼称を用いる企業もベンダー、ユーザー問わず増加しています。例えば皆さんは「コーポレートIT」というポジション名をご存じでしょうか。
本記事では、コーポレートITと情報システムの違いや、企業・当事者双方における意味、求められるスキルなどについてご紹介します。
コーポレートITとは、企業(コーポレート)の活性化や価値向上に従事するIT人材およびその所属する部署のことです。業務は基幹システム、業務システムの開発・構築・運用・保守、ネットワークの構築やアカウント・セキュリティ管理、ヘルプデスクなど社内のITにまつわる、ほぼすべてに関わります。すなわち、従来の情報システムや社内SEと求められる役割は変わりません。
ただし、現代の企業の市場環境やニーズに合わせて生まれた名称であり、そこには以下のようなニュアンスが加えられることがあります。
そもそも情報システムやIT部門という言葉は、それまで電算室や電算課と称されていたものが90年代以降のIT環境に対応すべく改称され、一般化してきたものです。同様の現象が「情報システム・IT部門」と「コーポレートIT」の間でも起きていると考えれば分かりやすいのではないでしょうか。
なお、コーポレートITはコーポレートエンジニアと称される場合もあり、両者は同じものを指すこともあれば、社内の情報システムに関わる部門をコーポレートIT、その部門に所属する社員をコーポレートエンジニアというケースや、コーポレートエンジニアは社内システムのエンジニアリング、コーポレートITはその定着に向けたサポートや社内調整など、役割によって区別するケースもあります。
また、社内向けの役割を「コーポレートIT」とすることに対して、社外に向けたIT開発・運用などに携わる役割を「ビジネスIT」とすることもあります。
コーポレートITは、従来の「情報システム」と同様のポジションを指しつつも、より現代的な企業の役割、市場環境に合わせた価値を発揮することが期待されます。
ビジネスITと対比される役割として、IT業界で使われることも多いこの名称。ものづくり企業では「コーポレートIT」のポジションを設ける必要はないのではないか、と考えられた方もいるかもしれません。
しかし、あえて新たな名称を用いることで、社内のIT人材に期待する役割と現代的なITの位置づけへの目線があることが一言で示せます。
これは、単純に思えますが意外と大きなメリットです。
「情報システム→コーポレートIT」へのシフトは、単なる名称だけでなく企業の姿勢が変わったことをこの上なく分かりやすく示す一つの手だてともなるのです。
ここで、コーポレートITに適した人材について考えましょう。
システム、クラウドなどの開発・運用やベンダーコントロールに関する知識、新たな知識・最新事例を蓄えるための勉強に向けた姿勢・ITに対する興味、意図を伝え要望を理解するためのコミュニケーション能力などが求められる点は従来の情報システムと変わりません。
その上であえて必要なものを挙げるとすれば、ITの力を企業全体の価値向上に生かすことを志向する攻めの姿勢と、社内のユーザーにツールの新規導入やアップデートの価値を実感してもらうための導線を描く力です。
これまでは“縁の下の力持ち”としてポジショニングされ、他部署から「何をしているのか分からない」と言われることもあった情報システム。それが、“コストセンター”という印象や「情報システム不要論」を生む原因の一つともなっていました。
コーポレートITのゴールは、全社的に「このシステムのおかげで業務がやりやすくなった」という実感を広め、企業の利益につながっているという認識を得るところにまでおよぶとお考えください。
そのため知識や最低限のコミュニケーション能力だけでなく、姿勢や社内マーケティングのスキルも重視されるのです。
2020年代、役割のアップデートが求められる情報システムの現状について、「コーポレートIT」というキーワードを軸にご紹介してまいりました。新たに求められるスキルも多く、負担に感じられた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それはIT部門・IT人材の重要度が高まったことの反映でもあります。
ぜひ、名称にかかわらず「コーポレートIT」として力を発揮することを意識してみてください。