昨今では、半導体の安定確保や競争力強化に向けた投資が世界各国で積極的に進められています。日本も例外ではなく、半導体投資に関する方針を政府が示したり、各メーカーが増産投資を進めたりと、すでに取り組みが進んでいる状況です。
本記事では、世界各国の動向を踏まえつつ、日本における半導体投資の現状をご紹介します。
直近で発生した世界的な半導体不足を受けて、世界各国で半導体投資が進んでいます。
アメリカの半導体投資が注目を集めています。バイデン大統領は2022年8月9日、国内での半導体の生産や研究開発に約7兆円を投資する法案に署名し、同法が成立しました。この半導体投資法の主な狙いは、台湾などからの輸入に依存しているサプライチェーンを見直すとともに、半導体の国産化を積極的に進めている中国に対抗することと言われています。すでにアメリカ国内で新工場を建設中のインテル・TSMC・サムスン電子などに補助金が支給されると予想されていますが、この法案をきっかけに、ほかの企業も新工場設立などの設備投資に乗り出すと考えられます。
日本政府も、自国の半導体産業の競争力を強化するための方針を打ち出しています。
岸田首相は2021年末に、国内での半導体製造を強化するために「官民合わせて1兆4,000億円を超える大胆な投資を行う」と表明しました。2021年度の補正予算案では、半導体メーカーの新工場設立を支援する基金の財源として約6,000億円が計上され、熊本県に建設されるTSMCとソニーの新工場に対して約4,000億円の助成を行っています。2022年7月には、キオクシアとウエスタンデジタルが四日市工場で実施する新製造棟の設備投資に対し、約930億円の助成を行うことが決定しました。
一方で、台湾・韓国・中国・アメリカなどが実施する投資に比べると、日本における半導体投資はまだまだ不十分という声もあります。自民党の議員らで設立された「半導体戦略推進議員連盟」は、半導体の製造基盤強化のために「10年で官民合わせて10兆円規模の投資を求める」という決議を2022年5月24日にまとめました。実際に10兆円規模の投資が実現するかはまだ分かりませんが、日本の半導体産業が国際的な競争に勝ち抜いていくために、今後も積極的な投資が行われていくと考えられます。
日本の半導体メーカー各社も、直近の半導体不足を受けて大規模な工場を建設したり、設備投資をしたりと、独自に取り組みを進めています。
例えば、上述したキオクシアは四日市工場だけでなく北上工場でも新たな製造棟を建設しており、2023年春に完成する予定です。投資規模は約1兆円とされており、スマートフォンやデータセンター向けで需要の高いNAND型フラッシュメモリの生産能力が大幅に増強される見込みとなっています。
また、日本メーカーの存在感が強いパワー半導体の領域でも、増産投資が相次いでいます。例えば、ルネサスエレクトロニクスは2014年に閉鎖した甲府工場に約900億円の投資を行い、パワー半導体の生産ラインを2024年に再開すると発表しました。一度閉鎖した工場を再稼働させるという珍しさもあり、大きく注目されています。そのほかにも、富士電機が1,900億円、ロームが1,700億円、三菱電機が1,300億円といったように、多額の設備投資が各所で進んでいる状況です。
電力の供給や制御を担っているパワー半導体は今後、電気自動車や燃料電池車向けでの需要が急速に拡大すると予想されています。また、電力を効率よく活用するための半導体であることから、SDGsやカーボンニュートラルの観点からも需要が拡大していくでしょう。パワー半導体の増産体制を整えることで、各メーカーの事業が大きく成長していくと期待できます。
半導体は今や「産業のコメ」とまで言われる重要な存在です。そんな半導体を安定して確保し、競争力を強化するためには、国家主導で積極的な投資を行うことが重要になっています。日本には半導体チップの目立ったメーカーはいませんが、パワー半導体や半導体製造装置の領域では存在感が強く、さらに成長していく可能性があります。日本の今後を大きく左右するかもしれない半導体投資の動向に、引き続き注目していきましょう。