半導体不足を引き起こしている半導体市場の状況は、2024年に大きく変わると予想されています。一部では「2024年問題」と呼ばれており、半導体市場が今後どうなっていくかを考える上で重要な内容です。そこで本記事では、半導体市場で囁かれている「2024年問題」がどのようなものかを解説します。
半導体市場の「2024年問題」とは、現在も続いている世界的な半導体不足が2024年には終息し、一転して供給過剰に陥るかもしれないという懸念を指す言葉です。
「2024年問題」が懸念されている背景には、半導体不足の影響による生産能力の急速な拡大があります。SEMI(国際半導体製造装置材料協会)が2021年6月に公開した予測レポートによると、2021年から2022年にかけて着工を予定している半導体メーカーの新工場建設計画は世界で29件もあります。地域別の内訳は、中国と台湾で各8件、アメリカで6件、欧州・中東で3件、日本と韓国で各2件となっており、各メーカーは旺盛な需要に対応すべく生産能力の拡大に取り組んでいる状況です。特に、中国とアメリカは過剰にも見えるほどの設備投資を行っており、戦略物資としての価値を高めている半導体を確保すべく動いています。
一般的に、半導体工場の建設から稼働までには数年間のリードタイムが必要であり、これらの新工場も2024年頃から徐々に稼働すると見込まれています。数多くの新工場が稼働して半導体を供給し始めることにより、逆に供給過剰に陥るのではないかというのが「2024年問題」の概要です。
では、「2024年問題」によって半導体市場にどのような影響があると考えられているのでしょうか。
まず考えられるのが、半導体価格の変化です。直近では、世界的な半導体不足によって半導体メーカーは強気な姿勢で値上げができるようになり、価格高騰が続いてきました。しかし、半導体不足が解消されて供給過剰となれば、一転して低価格化が進む可能性があります。
また、中国やアメリカは多額の補助金を投入して半導体メーカーを支援しています。それによって利益を度外視した販売戦略を取るメーカーが現れると、さらに低価格化が進むかもしれません。特に、数世代古い技術で作られた汎用的な部品に関しては、その傾向が顕著になるでしょう。
半導体製品が安く手に入るようになれば、電子機器への搭載量が増えると考えられます。電子機器の高性能化が進むことで、社会全体のデジタル化が進むことになるでしょう。半導体市場のユーザーにとっては、決して悪いニュースではありません。
一方で、半導体メーカーやそのサプライヤーにとって、供給過剰は大きなリスクとなります。メーカーによっては収益性が悪化したり、低価格化についていけずに競争力を落としてしまったりする恐れがあります。
「2024年問題」が現実のものになれば、半導体メーカーやそのサプライヤーに大きな打撃を与えるかもしれません。一方で、大きく二つの理由から「2024年問題」は起こらないという見通しもあります。
一つ目の理由は、半導体の需要増加です。半導体の需要が今のままであれば、2024年以降に供給過剰に陥るかもしれません。しかし、これからの時代ではあらゆる製品の電子化が進み、ますます半導体が必要とされることから、供給過剰にはならないという意見もあります。実際に、自動車のEV化や自動運転・5G・IoT・AIなど、半導体を必要とするさまざまな製品や技術が普及しつつあり、今後も半導体市場の成長を支えると期待されています。
二つ目の理由は、半導体不足の長期化です。大手半導体メーカーであるIntelのゲルシンガーCEOは、2022年4月に出演したニュース番組で、半導体不足が解消される時期が当初の予想である2023年から2024年までずれ込む可能性があるとの見通しを述べました。同氏はその理由について、半導体不足が設備の調達に影響を与えており、工場への設置が難しくなっているためとも述べています。
既存の工場で生産ラインを追加したり、新工場を立ち上げたりするには、大規模な設備投資が必要不可欠です。設備の調達が遅れれば、生産能力の強化もその分遅れるという悪循環に陥ってしまい、半導体不足がズルズルと長期化する可能性があります。ほかの半導体メーカーからは情報が出ていませんが、半導体不足が解消される時期がいまだにはっきりとしないことは確かです。
半導体市場の「2024年問題」は、実際に発生するかどうかが不透明になっています。半導体不足がまだまだ続くのか、一転して供給過剰に陥るのか、どちらに転ぶかは分かりませんが、継続的に情報収集していく必要があるといえるでしょう。半導体市場の需給バランスが今後どうなっていくのか、注目していきたいところです。