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DX時代の設備保全管理 CMMSとEAMの違いは?

レンテックインサイト編集部

工場の生産能力を生かし、また安全安定な操業を実現するために注力すべき設備保全管理。DXの進展によりスマート保全が可能となり、その実情にも進展が見られます。「DX時代に押さえるべき設備保全管理の勘所とは?」「CMMSとEAMはどう違う?」といったような疑問を本記事で解消しておきましょう。

DX時代の「設備管理保全」 スマート保全とは?

スマート保全(スマート保安)とは、ITテクノロジーを活用した設備保全管理のことです。プラントや設備の保全活動は、生産コスト、労働安全、製品品質、生産量などあらゆる工場の課題に関わるポイントであり、また設備の老朽化や熟練人材の引退が進む中で喫緊の課題となっています。そこで注目を集めるのが、AI、IoT、ドローン、ウエアラブル端末などのソリューションを活用したスマート保全です。

令和2年6月には、日本のスマート保全を官民が連携して強力に推進することを目的として「スマート保安官民協議会」が設置されました。経済産業省の資料『スマート保安の促進~産業保安分野におけるテクノロジー化の推進~』では、スマート保全の理想像として、膨大・リアルタイムなデータの取得による事後・予防保全と、AIの分析による予知保全がなされ、さらにドローン・ウエアラブルによる危険作業の肩代わりが可能となるイメージが提示されています。

同資料において、スマート保全は導入コストがかかる一方、効果が即座に現れにくいことから導入が進んでいないことが指摘されており、その解消のために効果を見える化することが必要だとされています。また、DX分野に共通するIT人材の不足も課題として提示されています。

先行事例で見るスマート保全のメリット

ここで、スマート保全の実例をいくつか見てみましょう。
経済産業省 保安課が平成29年4月に公開した『スマート保安先行事例集~安全性と収益性の両立に向けて~』には石油精製、石油化学、一般化学、電力、ガス、インフラ等の6業種に分けて25事例が掲載されており、保安面・収益面の両面でメリットが示されています。

例えば保安面で「従来把握できなかった状態の監視」「故障の予測」、収益面で「生産性向上による売上拡大」のメリットが得られたのが、温度・圧力などの重要プロセス変動を感知し、予知保全・予防保全を可能にした石油精製プラントの事例。当初は精度が不十分だったアラーム機能を、現場の聞き取りを通じてチューニングすることで有効なものに育て上げたといいます。
また、とある総合化学メーカーではタブレット端末を配布し、資料参照や設備状況の共有を促進。保安面では「作業履歴の管理」と「熟練ノウハウの蓄積・可視化」、収益面では「維持・修繕にまつわるコスト削減」が達成されました。
ほかに工場全体の総光熱費を最適化するシステムにより「エネルギーコストの削減」を達成した化学メーカーや、自社のビッグデータ分析を故障の予測や生産性向上に生かし、その成果を海外向けに展開することで「新ビジネスの創出を通じた売上拡大の可能性」を見越す電力会社の事例などが報告されています。

このように、一つのソリューションで保安面・収益面での一挙両得を狙うことができるのが、スマート保全が推奨される大きな理由の一つです。それはITソリューションの進化に後押しされており、事後保全がメインだった設備保全のあり方は予防保全、そしてデータを活用した予知保全へと可能性を広げています。また、予知保全において、時間を基準にする「時間基準保全(TBM:Time Based Maintenance)」に加え、センシングしたデータから設備の状態を把握し適切な修理交換を実現する「状態基準保全(CBM:Condition Based Maintenance)」が伸長しており、今特に注目したい分野といえるでしょう。

設備保全管理でよく聞く、CMMSとEAMの違いは?

設備保全管理に関連したITシステムとしてCMMSあるいはEAMについて耳にしたことのある方もいらっしゃるでしょう。

前者は「Computer Maintenance Management System(コンピュータメンテナンス管理システム)」の頭文字を取っており、設備保全にまつわる情報を一元管理し、対象設備担当者の業務をサポートします。一方、後者は「Enterprise Asset Management(設備資産管理)」の頭文字を取っており、企業の資産すべての統合的な管理を可能にします。
EAMは設備メンテナンスに特化していたCMMSの機能を拡張し、企業の資産を業務効率化や新規ビジネスの創出といった収益面のメリットにつなげることも狙いに含んでいます。

まとめると、CMMSは設備保全に特化した“守り”のシステム、EAMは資産の適切な管理による経営上のメリットを狙う“攻め”のシステムといえるかもしれません。とはいえ、両者は機能が共通している部分もあり、両方の機能を兼ね備えたシステムも存在します。

“守り”と“攻め”両面でメリットのあるスマート保全を

DX時代の設備保全管理(スマート保全)について解説しました。本文で述べた通り行政の後押しも進められており、これまでに認定事業者の優遇制度や省令の改正などが実施されています。設備保全は“守り”だけでなく“攻め”にもつながることを踏まえ、両面でメリットの得られる施策を考えましょう。

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