AIチップと呼ばれる新たな製品が、半導体業界で注目を集めています。AIがあらゆる用途で活用されていくこれからの時代において、AIチップの需要は高まっていくでしょう。時代の流れに取り残されないように、早い段階からAIチップについての理解を深めておくことが重要です。
そこで本記事では、AIチップの概要や主要メーカー、市場動向などを解説します。
AIチップは、AIに特化した半導体チップです。現在のAIの主流である機械学習やディープラーニングで行われる演算処理を高速化できるように設計されています。
もともと、AIの演算処理にはGPUと呼ばれる製品が使われていました。GPUは画像処理に特化した半導体チップですが、大量の並列計算をこなせるという特長があります。その特長が膨大な数の計算を繰り返しながら学習するAIの仕組みとうまくマッチしたため、GPUがAIにも応用されることになりました。
しかし、GPUはAIに特化しているわけではないため、消費電力や性能の面で不十分でした。そこで、AIに特化した半導体チップを作ることで、より消費電力が少なく高性能なAIを実現しようという動きが出てきます。その結果、AIチップが生まれることになったのです。
AIの演算処理は、膨大なデータをもとに学習していく「学習プロセス」と、学習した結果をもとに実際のデータで推論を行って結果を導き出す「推論プロセス」の二つに分かれています。この二つのプロセスでは求められる性能が異なるため、それぞれに特化した形でAIチップが設計されます。「学習プロセス」向けでは、学習時間をできる限り短縮できるように高い処理性能が、「推論プロセス」向けでは、実際の現場で使いやすいように消費電力の小ささや動作保証環境の幅広さなどが求められる傾向にあるので、覚えておきましょう。
最初にAIチップとして注目を集めたのは、Googleが開発した「TPU」という製品でした。「TPU」を使用した囲碁プログラム「AlphaGo」がトップ棋士に勝利したことで、世界中がAI技術の進化を強く認識することになります。Googleは「Google検索」「Google翻訳」「Googleフォト」などの自社サービスで「TPU」を活用しているほか、「Cloud TPU」というクラウドサービスでユーザーにAI機能を提供しており、AIの普及に大きく貢献してきました。
AIチップのメーカーとしては、NVIDIAが強い存在感を放っています。NVIDIAはもともとGPUの圧倒的なシェアを持っており、GPUがAIに応用されるようになってからは、AI向けの開発に注力するようになりました。
しかし、今では主要な半導体メーカーだけでなく、GAFAMやテスラのような大手企業もこぞってAIチップの開発に取り組んでおり、しのぎを削っています。GAFAMやテスラは自社のビジネスに最適化したAIチップを開発するのが目的と言われており、AIチップを外部に向けて大々的に販売する可能性は低いと見られていますが、動向が気になるところです。
現状、AIチップの市場ではNVIDIAが先行しているといえますが、今後どの企業が覇権を握るのかはまだまだ分からないでしょう。
AIチップの市場では、エッジAIという言葉がキーワードになっています。
従来のAIはデータセンターなどのサーバー上で学習や推論が行われており、実際にデータを活用する現場(エッジ)との距離が遠くなってしまいます。そのことは、次のような課題を生んでいました。
そこで、近年ではAIチップと関連機器をセットにしたAI機能をエッジ側に設置し、現場で即座に推論ができる環境を整えるというエッジAIが増加しています。負荷のかかる学習はサーバー上で実施し、学習したAIモデルをもとにエッジAIが現場で推論を行えば、上述した課題を解決できるという考え方です。エッジAIが普及すれば、迅速かつ高度な判断が求められる完全自動運転車のような技術が実現に近づくと考えられます。
AIチップの各メーカーは、このエッジAIを視野に入れて開発に取り組んでいます。大手企業だけでなく、ベンチャー企業もAIチップ市場に続々と参入しており、莫大な投資マネーも動いている状態です。日本でも有望なベンチャー企業が誕生しており、大手企業や研究機関と連携しながらAIチップの開発を進めています。
今後、AIチップの市場ではさらに激しい競争が繰り広げられることになるでしょう。
AIチップの登場によって、半導体業界がさらに活発化することになりました。AIチップの市場はまだまだ発展途上にあり、さまざまなメーカーが切磋琢磨しながら市場を盛り上げていくと考えられます。これからの時代を作っていくであろうAIチップの市場動向から、目を離せない状況が続きそうです。