「100年に一度の大変革期」という言葉に象徴されるように、日本のものづくり産業が変化を求められる中で、エンジニアリングチェーンの刷新に取り組むことは企業にとって重要な課題です。設計の直接的なデジタル化の中でも、近年よく耳にするようになった「ジェネレーティブデザイン」という言葉。その概念やトポロジー最適化との違い、メリットや今後の可能性などについて押さえておきましょう。
ジェネレーティブデザイン(Generative Design)とは、平たく言えば“コンピューターによるデザインの自動生成”のことです。Generativeという英単語には「生成力のある」という意味があり、材料や制約条件、荷重などの指定に合わせて複数のデザインの可能性を示してくれます。
ジェネレーティブデザインと並べて語られることの多い技術に「トポロジー最適化」があります。両者は、“設定した条件に応じてコンピューターが最適なデザインを提案してくれる”点では似ていますが、あくまで設計者のイメージする形状をコンピューターが立体構造として示すトポロジー最適化に対し、ジェネレーティブデザインでは入力した条件に対してコンピューターによりデザインの生成が行われるという点で大きく異なります。その違いは、トポロジー最適化では単一のモデルが示されるのに対し、ジェネレーティブデザインでは複数のモデルが提案されるという点にも現れています。
ジェネレーティブデザインのメリットについて解説します。
機能的・構造的・美的など総合的な視点から製品に求められる条件を理解し、それを様々なデザインに落とし込み、複数の案を検討して一つのゴールにたどり着く、といったプロセスには多くの試行錯誤が必要とされるものです。
ジェネレーティブデザイン・トポロジー最適化の双方に共通するメリットとして、その起点となる、条件を満たすデザイン案を生み出すまでのプロセスを大幅に効率化できるという点があります。できたモデルをそのまま3Dプリンティングし、設計からプロトタイピングまでを数日で進めるケースも一部では見られます。
設計プロセスを効率化することで、最適な構造について比較検討する時間がより多く持てるようになるというのも特筆したいメリットです。提案された無数のモデルに対し、フィルタリングや自動評価が行われる機能もあるため、選択肢が多くなった分必要になる「絞り込み」の作業も効率的に行えるでしょう。それはすなわち、できあがったモデルを選別し、手を加えることで完成させるという役割が、設計者にとってより重要になってくるということです。
コンピューターによる自動設計の思わぬメリットとしてよく取りざたされるのが、「通常の人間の思考からは導き出しにくい視点が得られる」というポイントです。それまでの常識の延長線上にないような複雑な構造や、限界まで機械的に突き詰めたからこそ達成された軽量化は大きなイノベーションを生むかもしれません。
ここまでの内容に対し、「ここまでできるのか!」と驚いた方もいらっしゃれば、反対に「そんなに簡単に設計士やデザイナーの仕事が代替できるわけがない」と疑いを覚えた方もいらっしゃるでしょう。
実際、ジェネレーティブデザインが普及したとしても設計士やデザイナーの仕事がなくなるわけではありません。まず、目的を設定し、そのための条件を設けるという設計の起点となる最重要プロセスは、ソフトウエアで代替することはできません。製品に抱えられるコストはこれだけで、このような価値を提供する必要があり、そのためにこうした環境が想定され、このような材料を用いたい……。これらの検討は当分人間にしかできないことでしょう。
また、生成された複数のデザインの中から一つを選ぶことや、その後の解析やその結果の解釈、微調整なども変わらず人間の仕事として残り続けます。成果物の質や企業の利益に繋げられるかはこれまでと変わらず、それを扱う人材の実力に変わらず大きく左右されることになるでしょう。
そもそも2020年度版ものづくり白書|出典:経済産業省によると、ジェネレーティブデザインに必要な3DCADの普及率は全体の約2割弱という状況であり、まだまだジェネレーティブデザインが身近に感じられないという方が多いはずです。しかし、3DCADの普及が進めば、がらりと状況が塗り替わる可能性もあります。いずれにせよ、今のうちにジェネレーティブデザインに触れ、どう使っていくべきかについて考えることは無駄ではないはずです。
ジェネレーティブデザインとは何ぞやという基本やメリット、設計士やデザイナーとのかかわり方についてまで解説してまいりました。未来的な機能に思えますが、エンジニアリングチェーンの刷新は差し迫った課題であり、全産業で「デザイン」の重要性が高まりつつある昨今の状況下で、注目は高まり続けています。“今”押さえておきたい概念として、進取の姿勢で取り入れていきましょう。