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「フロントローディング」のメリットと実現方法

レンテックインサイト編集部

IT Insight 「フロントローディング」のメリットと実現方法

DXにより、設計から生産、販売、保守までの全体像をより掴みやすくなることが期待されています。それに有効な施策と考えられるのがエンジニアリングチェーンの強化です。その中でも重要性が指摘される「フロントローディング」の実現も、デジタルの力で高められると言われています。

本記事では、フロントローディングの基本概念やメリット、DXを通じた実現方法、「フロントヘビー」に陥らないために意識したいことなどについてまとめて解説します。

フロントローディングとは? どんなメリットが得られるのか

まずは、フロントローディングの基本概念を押さえましょう。
フロントローディングとは、「Front(前)にLoading(負荷をかける)」の2単語で構成されており、“ものづくりの前工程である設計・開発の初期段階で生産・保守の段階まで想定して品質やコスト、仕様などを作り込むこと”を意味します。

フロントローディングの推進が推奨される背景にあるのが、ものづくりのプロセスは後工程に進むほど、後戻りや修正にかかるコストが増大するという事実です。製造・実験などそれまでの工程にかかるコストはもちろん、関わる人数が増えればコミュニケーションコストも増大します。「初期段階で気づいていれば簡単に対処できた問題点に、試験を行った後に気付いたことで大きなロスが発生した」という事例には皆さんも覚えがあるのではないでしょうか。

そのため、なるべく設計・開発の初期段階であらゆる問題をシミュレーションし、後戻りを生じさせたくないわけです。例えば分野横断的に実施されるDR(デザインレビュー)もフロントローディングに貢献する取り組みの一つです。各部門の専門家が寄り集まって文殊の知恵をひねり出す文化を持つ日本企業では、フロントローディングが比較的うまくいっており、独自の強みとなっていると言われてきました。

しかし、3DCADやCAM、CAE、CATが一般化し始めた1990~2000年代以降、フロントローディングは新たなフェーズを迎えます。それはいわば、フロントローディングのデジタル化といえるでしょう。3Dモデルに対し、シミュレーションやテストを行えるようになり、また、DMU(デジタルモックアップ)を作成することで、営業や調達・購買など多様な部門の人材から図面を読むスキルの有無にかかわらず、具体的な意見が募れるようになりました。

フロントローディングの実施前に押さえたい前段階

フロントローディングを実施するための第一歩はツールの導入と設計段階に負荷を前倒しするというプロセスの見直しです。ただし、その前段階としてフロントローディングの効果を測る指標の設定があるでしょう。代表的な指標として挙げられるのが、良品率や、開発コストやリードタイムです。ようするにQCD(品質・コスト・納期)というわけですね。

ここで目標値を固め共有することで、フロントローディングの目的がはっきりするとともに、話し合いや意見の取捨選択もしやすくなります。

例えば、リードタイムをこれだけ短縮したいという目標があるからこそ、生産技術部門や設計部門と共同で連携しながら同時に開発を進めるコンカレントエンジニアリングが可能になり、そのためのルール設定も明確になるというわけです。

品質を高めるためFMEA(故障モード影響分析)などのプロセスに取り組む際も同様であり、事前に指標が設定されているからこそ、手間のかかるリスクの洗い出しに対し本質的に取り組むことが可能になります。

「フロントヘビー」に陥らないために意識したいこと

フロントローディングの導入を進めれば、当然設計部門の負担は増加することになります。スキルやチーム力が欠けていたり、ミッションや指標が明確化されていなかったりすれば、効果は得られず設計部門の徒労感だけが増加する「フロントヘビー」という失敗に陥ってしまうかもしれません。
フロントローディングの導入を進めるにあたって設計部門から抵抗感が示される理由の多くもフロントヘビーを懸念する気持ちが背景にあります。

フロントヘビー問題を未然に退け、また設計部門の深い協力を得るにはフロントローディングの目標達成までの道筋を段階的に描き、現場のコンセンサスを得ながら着実に進めていくことが重要でしょう。また、増加した業務に対しどこまでは設計部門が対応し、どこからは他部門が関わるのかを、経営陣やリーダーが判断する事も大切なポイントです。他部門が関わることになればビューワの使い方の説明などやるべきことはさらに増えるため、徐々に設計部門に工程を移し、人材計画などもリンクさせながら、フロントローディングの達成率を高めていくイメージを持つ必要があります。

フロントローディングは“エンジニアリング力強化”の一部

エンジニアリングチェーン改革の一大テーマとなり続けているフロントローディングのメリットと実現方法について論じてまいりました。デジタル化によってできることは増えましたが、やはり最終的に重要なのはツールを使う人材のスキルとチーム力です。自社のエンジニアリング力強化を見据えながら、フロントローディングの実現に取り組んでいきましょう。

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