インダストリー4.0とは、ドイツで2011年にコンセプトが採択され、2013年から本格的な取り組みが始まった、製造業のデジタル化を目指す国家的プロジェクトです。
日本語では「第4次産業革命」と訳されます。それであれば第1次から第3次までがあったはずです。それらはどのようなものだったのでしょうか。
ドイツ政府によれば、第1次は18世紀末の蒸気機関の実用化、第2次は20世紀初頭の大量生産と電力の使用、第3次は1970年代からの電子化およびIT化だといいます。
では「第4次」は、何なのか。それは、「ものづくりに関わる、ありとあらゆるモノとコトがつながる」ということです。
その中心となる技術は二つです。
一つはIoT(Internet of Things)、すなわち「モノのインターネット」です。IoTにより、あらゆる製造機器や生産管理用コンピュータなどがネットワークに接続できるようになり、モノとコトがつながる基礎ができました。
もう一つはAI(人工知能)です。AIは、インダストリー4.0が最終的に目指している、製造機器や工場同士の高度な自動連携には欠かせません。
またインダストリー4.0の取り組みには、生産現場や利用現場から集まってくる「ビッグデータ」を解析して、付加価値をつけることも含まれます。ビッグデータの解析にはAIを利用することが多いです。
インダストリー4.0の核心となる技術コンセプトは、CPSです。CPSとはCyber Physical Systemの略で、サイバー(電脳)空間とフィジカル(物理)空間をつなげる仕組みのことです。
サイバー空間とは、AIやクラウドといった最新ITを含み、なおかつそれらが連携しているIT環境です。またフィジカル空間とは、現実世界であり、工場(後述のスマートファクトリー)等を指します。
CPSには人も含まれます。人はモニタリングを担当し、異常があれば必要に応じて対応します。
生産現場で発生するデジタルデータはサイバー空間に送られ、サイバー空間ではそれを適切に処理して、生産現場へリアルタイムかつ自動的にフィードバックします。生産は、この繰り返しで進んでいきます。
生産だけではありません。新製品開発、販売、サポートといった製品のライフサイクル全体がデジタルデータでつながります。
ファクトリーオートメーションを支えるPLM(Product Life-cycle Management、製品ライフサイクル管理)が、CPSでさらに効率化・自動化・高度化できるようになります。
またCPSは一つの工場に閉じるものではありません。クラウドを介して、社内の複数の工場はもちろん、必要に応じて他社の工場とも自動連携することが可能です。
工場同士が自動連携できると述べましたが、そのためにはお互いがスマートファクトリー(スマート工場)であることが必要です。
スマートファクトリーとは、CPSを構築し、現実空間からIoTを通じてリアルタイムに得られる情報をサイバー空間で処理し、現実空間での生産システムの最適化・自律化を実現する工場のことです。
工場内のあらゆる製造機械にIoTにつながるセンサ類が取り付けられ、センサ類から送られてくるデータをコンピュータが処理して、自動的に最も効率的な生産が行われるように調整します。
ドイツでは、国内の全ての工場をスマートファクトリー化し、相互接続できるようになることを目指しています。
スマートファクトリーをサプライチェーン全体で水平統合(元請と下請という縦関係ではなく、対等な連携)していくことに意味があるからです。
ではスマートファクトリー同士の水平統合には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
それは、複数の企業が協力して生産することで、全体で無駄や管理工数を削減できること、さらにマス・カスタマイゼーションが容易になると期待されているためです。
マス・カスタマイゼーションとは、ダイナミックセル方式による工場間連携により、低コストで個別生産を実現することです。
多品種少量生産を実現する方式として、セル生産方式があります。これはセルと呼ばれる熟練工の小集団が一つのラインの製造を受け持つ方式で、それを可能にするためのあらゆる工夫がなされています。
スマートファクトリーを実現している高度な管理システムがあれば、必要に応じてセルを動的に立ち上げることも可能です。
これをダイナミックセルと呼び、工場間で連続的にダイナミックセルを立ち上げて自動連携していけば、マス・カスタマイゼーションが容易になると期待されているのです。
インダストリー4.0では、クラウドも中核技術の一つに含まれています。クラウドを利用する理由は、大きく三つあると考えられます。
しかし一つの工場内で機械同士が自動連携する場合、高いリアルタイム性が求められる処理もあります。このような処理では、クラウドにあるコンピュータと通信するのは現実的ではありません。
そこで、リアルタイム性の高い処理は工場内(エッジ)で高速に処理し、データ蓄積などリアルタイム性の低い処理はクラウドでゆっくり実行するという考え方が出てきました。
これをエッジコンピューティングといいます。エッジとクラウドの間を階層的に分割するフォグコンピューティングという考え方もありますが、エッジとクラウドの協調処理という意味では同じです。
生産現場以外にも自動運転など様々な分野で活用が期待され、技術開発が進んでいます。
日本では、経済産業省が中心となって 日本版のインダストリー4.0である“Connected Industries”が推進されています。
その取り組みの一環として、製造プラットフォームを連携させるためのワークグループが立ち上がっています。
日本ではすでにファクトリーオートメーション(FA)に多大な投資がされており、現在のFAの仕組みを生かしながら、他社の工場と連携することを可能とする方向で進められていくでしょう。
地域の中小製造業が既存の資産を生かしながら、工場同士の連携を実現した事例はすでにいくつもあり、神戸市長田区の「神戸航空機産業クラスター研究会」、東京都城東地区の「つながる町工場プロジェクト」などが有名です。
日本でも徐々にインダストリー4.0の動きが強まってきています。様々なものがつながり重なり合うことで、より効率的で生産性の高い工場が増え、ますます工場の革命がされていくことになるでしょう。