DXに向けてITシステムを構築・刷新する際に、「SoR/SoE」あるいは「SoI」という区分を目にしたことはあるでしょうか?
そもそもはITマーケティングにまつわる文脈で生み出された分類ですが、システム構築時はもちろん、運用フェーズでもそれらの違いを意識することで得られるメリットは大きいはずです。
本記事では、SoR/SoE/SoIの違いを解説し、日本の製造業DXのネックとなっているレガシーシステムの刷新に生かせる知識をお届けします。
SoR/SoE/SoIの違いは、それぞれを利用する目的にあります。
SoR(System of Record:記録のためのシステム)は、その名の通りデータを記録しておくためのシステムです。会計システム、人事システム、受発注管理システムなど、旧来企業で使われてきた業務システムの多くはSoRに該当します。
SoE(System of Engagement:エンゲージメントのためのシステム)は、企業と顧客、取引先、従業員間などの“つながり”(エンゲージメント)を促進するためのシステムです。チャットボットやコミュニケーションツールなどから、トレーサビリティシステムなど間接的なエンゲージメントを促進するものまで多様なシステムが該当します。
SoI(System of Insight:インサイトのためのシステム)は、記録したデータを通して何らかの“気づき”や“洞察”を得るためのシステムです。例えば、「生産管理システム×IoTで稼働率やサイクルタイムを見える化しカイゼン活動に役立てる」といった利用法が考えられます。
SoR、SoE、SoIはその目的によって分類されるため、同じシステムでもSoRとして使われる場面もあれば、SoEやSoIとして使われる場面もあります。
SoEという言葉は、2011年「キャズム」理論などで知られるジェフリー・ムーア氏によって考案されました。
サプライチェーン、デリバリーチェーン、カスタマーサポート、グループ全体のエコシステムなど、グローバル化や社会の情報化が進展する中で、エンゲージメントに特化したシステムの存在を指摘したのが同氏の慧眼です。
そのホワイトペーパー「Systems of Engagement and the Future of Enterprise IT(SoEとエンタープライズITの未来)」では、文章に限らず音声、映像など幅広いコンテンツ管理のSoEにおける重要性が説かれています。
従来のように財務周りを中心としたものでだけでなく、製造データや顧客情報などの関係性データなど幅広いデータを蓄積することで、単なる情報の管理ではなく、コミュニケーションや生産技術の業務に役立つシステムを構築するというのがSoE、ひいてはSoIの考え方になります。
そこで鍵となるのがリアルタイムにデータを確認し、それを生かして打ち手を考え実行するというサイクルを確立すること。EPRの構築・刷新においてデータ処理の速度が重要とされるのも、情報のリアルタイム性が高まった状況では、他社に出遅れない環境を構築することが不可欠だからです。
経済産業省製造産業局が2020年10月に公開した資料『製造業におけるリファレンスケースについて』では、日本の製造業の平均的な実態として、エンジニアリングチェーン・サプライチェーン・デリバリーチェーンの各フェーズにおける連携が不十分=データの流れが未整備であると指摘されています。
従来活用してきたレガシーシステムを入れ替えるには調査やテストも含めれば4年以上の期間がかかると言われています。そのため、なかなか刷新に取り組めていないのが現状──という企業も少なくないのではないでしょうか。
同資料では、製造工程のデータ収集に取り組んでいる企業の割合、データを実際に役立てている企業の割合がともに伸び悩んでいる、または減少している実態についてもレポートされており、その実態を裏付けています。
レガシーシステムの刷新プロジェクトを進めるためにも、そのプロジェクトに人を巻き込むためにも重要なのがゴールを明確かつ企業のアドバンテージにつながる形で提示することです。そこで、SoR/SoE/SoIの考え方は「伝わる」説明をする上で効果を発揮するはずです。
製造業のシステム構築・刷新にあたって知っておきたい「SoR/SoE/SoIの違い」についてご説明しました。エンゲージメント、インサイトなどのワードは経営・組織を語る上でも近年よく使われるワードであり、ITシステムの役割が現代的なものにアップデートされてきたということが伝わったのではないでしょうか。
もちろん、データの記録がシステムの根底にある機能であることは変わりありません。しかし、そこからどのような価値を引き出すかということに注目することで結果は大きく左右されるのです。