MEMSと呼ばれる微細な半導体デバイスによって、スマートフォンのような小型かつ高性能な電子機器が実現しています。あらゆる製品の小型化が進むこれからの時代においても、MEMSの重要性は増していくでしょう。
本記事では、ビジネスパーソンが改めて知っておきたいMEMSの特徴や役割について解説します。
MEMSは「Micro Electro Mechanical Systems」の略称で、日本語に訳すと「微小電子機械システム」という意味になります。MEMSは各種の微細加工技術によって、電子回路やセンサー、アクチュエータなどを一つの半導体基板上に集積させたデバイスです。一般的なMEMSは全長がmm単位と非常に小さく、その中にある部品はさらに小さいμm単位のものが使用されています。
MEMSとよく比較されるICは、基板上の電子回路によって電気信号を処理することに特化しています。それに対してMEMSは、電子回路に加えてセンサーやアクチュエータなどの可動部も備えているのが特徴です。また、平面かつ画一的な構造が基本のICに対して、MEMSは立体的かつ多様な構造を持つデバイスとなっており、目的に応じた専用の設計が行われています。
MEMSでは電気信号だけでなく、エネルギーや機械変位、物理量、光信号、化学量などを処理できます。応用分野が多岐にわたるため、MEMS市場の規模は年々拡大してきました。日本でもMEMSを製造するメーカーは数多くあり、MEMS市場において活躍しています。
MEMSはあらゆる製品の中に搭載されており、産業の発展を支えてきました。代表的なMEMSデバイスと、それらの働きを簡単に見ていきましょう。
音を電気信号に変換するデバイスであり、スマートフォンなどに搭載されています。MEMSマイクロフォンは、極めて小型でありながらも優れた音響特性と電気特性を持つのが特長です。最近では、複数のMEMSマイクロフォンを搭載することによって高精度にノイズキャンセリングする技術が開発されています。
特定の周波数帯の信号のみを通過させて、他の信号を遮断するフィルターとなるデバイスです。スマートフォンには必ずといっていいほど搭載されているデバイスであり、不要な信号を遮断することでノイズを減らしてくれます。スマートフォンによる通話や通信の品質が向上しているのは、BAWフィルターの働きによるものです。
物体の傾きや動き、振動、衝撃などを検知するセンサーです。スマートフォンでの歩数計や、カーナビでの移動距離の推定、自動車エアバッグの衝撃検知などに活用されています。
物体の回転や向きの変化を検知するセンサーです。上述した加速度センサーと組み合わせて移動量を計測したり、カメラでの手ブレを補正したりしています。最近では、スマートフォンのVR・ARアプリで画面の回転に合わせて適切に映像を表示するためにも活用されています。
気体や液体などによって受ける圧力を電気信号に変換して計測するセンサーです。気圧やガス圧、水圧、血圧などを計測でき、自動車や医療機器を始めとするさまざまな分野で活用されています。
可動式の小さな鏡を多数並べたデバイスであり、一つ一つの鏡の傾きを制御することでさまざまな映像を投影できます。プロジェクタとして使用されるほか、光造形方式の3Dプリンターの一部でも採用されています。
mm単位の大きさであり、あらゆる製品の小型化に貢献しているMEMSですが、その役割は単なる小型化だけに留まりません。MEMSは極めて小型のデバイスであるがゆえに消費電力が少なく、省電力化や動作時間の延長にも貢献しています。
また、スマートフォンのような小型機器の内部は、限られたスペースの取り合いになっています。一つ一つのMEMSが小さくなれば、今まで入れられなかった機能を付け加えたり、バッテリーサイズを大きくしたりできるため、さらに高機能になります。技術革新によってMEMS自体の低コスト化が進んでいる背景もあり、上述したノイズキャンセリング機能のようにMEMSを複数搭載して新しい機能を生み出す例も増えてきました。
MEMSは従来、自動車やスマートフォンに多く搭載されてきましたが、今後はドローンやウエアラブルデバイスなどの新しい機器にも搭載されて需要が増えていくと考えられます。また、近年注目を集めるIoTではさまざまな情報を取得するためにセンサーが不可欠ですが、センサーの多くはMEMSで作られているため、IoT関連での需要も増えていくでしょう。このように、MEMSは今後も産業の発展において重要な役割を担っていくと考えられます。
極めて小さいデバイスにさまざまな機能が詰め込まれたMEMSは、あらゆる製品の小型化や高性能化を支えてきました。MEMSの技術開発は引き続き行われており、今後も私たちの暮らしを豊かにしてくれるでしょう。MEMSの継続的な進化に期待しつつ、MEMS市場の動向を見ていきたいところです。