拡大し続ける半導体市場において、日本メーカーの存在感は以前に比べると薄れつつあります。産業のコメとまで呼ばれる半導体の市場で今後も生き残れるかどうかは、日本の未来にも大きく影響するでしょう。
そこで本記事では、半導体市場における日本メーカーの動向を解説します。
ひと昔前までの半導体市場において、日本メーカーは大きな存在感を放っていました。アメリカの調査会社であるIC Insightsの調査によると、1990年の半導体IC市場における日本メーカーのシェアは非常に高く、全体の49%を占めています。日本以外では、アメリカが38%、ヨーロッパが9%、アジア諸国が4%という結果であり、日本は圧倒的な半導体大国でした。
その背景としては、日本製の半導体ICが高品質であったことや、国内での需要の高さが挙げられます。当時は日本の電機産業が活況であり、通信機器やパソコン、家電製品などを大量に生産していました。大手電機メーカーは、高品質な半導体を製造して自社製品に搭載し、それを販売することでシェアを高めていたのです。
しかし、2020年の半導体IC市場では、日本メーカーのシェアはわずか6%にまで低下しています。一方で、アメリカは55%、アジア諸国は33%と大幅に伸びており、日本はその伸びに付いていけませんでした。その原因としては、日本製の半導体ICが過剰品質であったこと、価格競争に勝てなかったこと、内製にこだわりすぎたこと、日本全体のデジタル化が遅れたことなど、さまざまな理由が挙げられていますが、確実なことは分かっていません。
いずれにしても、かつての半導体IC市場では高いシェアを持っていた日本メーカーは、現在ではわずかなシェアしか持っていないということを理解しておきましょう。
半導体ICのような最終製品の市場では存在感を失いつつある日本メーカーですが、半導体材料や半導体製造装置に関しては、今でも強い存在感を放っています。
例えば、半導体の主要材料であるシリコンウエハーについては、日本メーカー2社で世界シェアの約50%を持っているといわれています。他にも、成膜工程における洗浄液や露光工程の感光材、エッチング工程のエッチングガスといった各種材料で日本メーカーは大きなシェアを持っており、半導体市場の拡大に伴って成長を続けています。
また、アメリカの調査会社であるVLSIresearchが発表した2020年の半導体製造装置メーカーの売上高ランキングでは、トップ15社のうち7社が日本メーカーという結果でした。一部の装置はほぼ日本メーカーが独占している状況であり、世界中の半導体製造工場を支えています。
最終製品であっても、特定の分野では日本メーカーが今でも強い場合があります。例えば、多品種少量生産で技術力の高さが求められるパワー半導体に関しては、日本メーカーが上位5社中2社を占めている状況です。パワー半導体はEV化や省エネ化とも深く関わるため、これから需要が拡大すると予想されています。
2021年現在、あらゆる産業でデジタル化やDXが進められており、半導体はすべての産業の根幹ともいえる存在になりました。また、直近では世界的な半導体不足が深刻化しており、いつ解消されるのかも不明確な状況です。このような状況下において、半導体の安定確保が極めて重要な課題となっています。
上述した通り、日本メーカーは半導体材料や半導体装置に関しては大きなシェアを持っていますが、半導体ICのような最終製品のシェアは低下する一方です。将来を見据えると、日本国内でも半導体ICを生産する体制を整えていく必要があるといえるでしょう。
経済産業省は、2021年6月に「半導体・デジタル産業戦略」を取りまとめており、国家事業として半導体の確保に取り組む方針を示しました。同報告書では、具体策として次のような取り組みが記されています。
実際に、政府は台湾の半導体メーカーの新工場を国内に誘致しており、2024年の稼働開始を目指しています。今後は半導体メーカーへの支援措置も大々的に行われていくでしょう。従来は日本メーカーが独自に取り組みを進めていましたが、今後は政府が主導する国家事業として、半導体製造に取り組んでいくことになると考えられます。
半導体市場において、日本は一時期ほどの存在感はないものの、特定の分野では今でも強い存在感を保っています。半導体ICなどの安定確保は日本全体の課題であり、今後はさまざまな支援措置が政府主導で行われていく見込みです。日本メーカーのこれからの動向に注目していきましょう。