私たちの生活に欠かせないスマートフォンは、さまざまなセンサーを搭載しています。現在のようにスマートフォンであらゆることができるようになったのは、各種センシング技術の進化によるものです。
本記事では、スマートフォンをセンシング技術の観点から説明します。
現在のスマートフォンは、電話機、カメラ、パソコン、カーナビ、ゲーム機などを兼ねている高性能な機器です。手のひらサイズのスマートフォンにこれだけの機能が備わっているのは、小型化・高性能化したセンサーの影響が大きいといえます。
小さなスマートフォンの中には多種多様なセンサーが搭載されており、さまざまな機能を果たしています。ここでは、スマートフォンによく搭載されているセンサーをいくつか取り上げて、それぞれの特徴や役割について解説します。
加速度センサーは物体の加速度を計測するセンサーです。加速度は単位時間当たりの速度の変化を意味し、加速度を計測することで物体の傾きや動き、振動、衝撃などが分かります。
スマートフォンの画面やカメラアプリでの縦向き・横向きが自動で切り替わるのは、この加速度センサーの働きによるものです。それ以外にも、歩数計や地図アプリでの移動速度の表示、カメラの手ブレ補正などにも活用されています。加速度センサーはスマートフォンにとってなくてはならないセンサーといえるでしょう。
ジャイロセンサーは物体の角速度を計測するセンサーです。角速度は単位時間当たりの回転角の変化を意味し、角速度を計測することで物体の回転や向きの変化を検知できます。上述した加速度センサーとよく似ており、両者を組み合わせて利用することも多いです。
スマートフォンを傾けて遊ぶレーシングゲームなどは、加速度センサーとジャイロセンサーの働きによって実現しています。また、VR・ARアプリではスマートフォンの回転に合わせて映像を表示しているため、ジャイロセンサーが欠かせません。
磁気センサーは、磁界の大きさや方向を計測するセンサーです。地磁気センサーや電子コンパスと呼ばれることもあり、主に地球の持つ磁気を計測して方角を知るために利用されています。
磁気センサーが最も活躍するのは、地図アプリを利用する時です。自分(端末)がどちらの方角を向いているのかを判別するために磁気センサーが活用されており、特に徒歩での移動時や登山時には欠かせない存在となっています。
スマートフォンには、磁気センサーと上述した加速度センサー・ジャイロセンサーを合わせて、9軸センサーと呼ばれるモジュールとして搭載されることも多いです。これら三つは初期のスマートフォンから搭載されているセンサーであり、スマートフォンの進化を支えてきました。
スマートフォンには、指紋センサーなどのような生体認証センサーが搭載されています。指紋センサーは画面ロックの解除や電子決済などの本人認証を簡略化するために活用されてきました。最近では、指紋センサーから顔認証に変わりつつあり、カメラや赤外線センサーを使って本人認証するケースが増えています。
指紋センサー自体も進化を続けており、従来はボタンで指紋を読み取る方式でしたが、現在はタッチ画面上で指紋を読み取る方式にしてボタンを廃止する傾向にあります。
GPSセンサーは人工衛星が発する信号を受信して現在位置を測定するセンサーです。通常、人工衛星からの信号を受信できない屋内や地下では位置の測定が困難ですが、スマートフォンの場合は基地局やWi-Fiなどの電波も使ってある程度の位置であれば測定できるように工夫しています。
GPSセンサーは地図アプリでの活用はもちろん、SNSやカメラ、ゲームなどでも活用されています。SNSでは投稿した場所を記録でき、カメラで撮った写真には撮影場所の情報も記録されています。最近ではスマートフォンの位置情報を利用して、現実世界を歩き回りながらプレイするゲームが非常に人気です。
光センサーは光の強弱を検知するセンサーであり、スマートフォンの周囲の明るさを把握することができます。輝度センサーや環境光センサーと呼ばれることも多いです。
スマートフォンにおいては、周囲の明るさに合わせて画面の明るさを自動調整するために役立てられています。周囲が明るい場合は見やすいように画面を明るく、周囲が暗い場合は画面も暗めにすることで、自然に見やすくしながら省電力化を実現します。バッテリーの持ちが重要視されるスマートフォンにとって、光センサーの働きは欠かせないものです。
これまでに紹介したセンサーは多くのスマートフォンに標準的に搭載されているものですが、最新のスマートフォンにはより高度なセンシング技術を使ったセンサーが採用されています。
例えば、自動運転やロボットの分野で注目されているLiDARは、2020年以降に発売されたiPhoneにも搭載されています。LiDARはレーザー光を利用して離れた物体までの距離を測るセンサーで、カメラのポートレートモードでキレイに背景をぼかしたり、夜間でも高精度にピントを合わせたりできます。また、LiDARを使えば画面内に映った物体の位置関係を正確に測定できるため、ARアプリでの映像表示がより正確になると期待されています。
また、スマートフォン用のカメラの高性能化が進んでおり、1インチセンサーを搭載した最新機種が増えています。1インチはイメージセンサーのサイズのことであり、高感度に撮影ができるため写真や動画の表現力が高まります。今後は動画撮影やライブ配信のニーズがさらに高まると考えられており、専用のカメラやビデオカメラではなくスマートフォンを使うユーザーが増えていくかもしれません。
センシング技術の進化とセンサーの小型化によって、スマートフォンは大幅な進化を遂げてきました。センシング技術のさらなる進化によって今までスマートフォンには搭載されていなかったセンサーが搭載されるようになれば、新しい機能によって私たちの生活がより豊かになるかもしれません。今後、スマートフォンの機能をセンシング技術やセンサーの視点から観察してみるのも面白いのではないでしょうか。