図面・設計図、カタログ、仕様書、見積書、指示書、日報……。 製造業は他業界に比べて業務に用いる文書の種類・数が多いといわれます。それらのペーパーレス化を進めている企業もまた多いのではないでしょうか。近年、技術や規制の変化も伴い、工場・バックオフィスなどのペーパーレス化は加速しています。 本記事ではペーパーレス化のメリットをまとめ、その具体的な手法や気を付けたいポイントについてもご紹介します。
「ペーパーレス化はエコなだけでなく、働き方改革や業務効率化にもつながる」とよく言われます。具体的にはどのような効果が期待されるのでしょうか。電子化による効果と、ペーパーレス化によるコスト削減効果をそれぞれ5つずつ以下に列挙します。
まず、電子化することで得られるのがファイル名やタグによる検索、また管理表とリンクによるシームレスな書類管理です。2022年1月の電子帳簿保存法改正に伴い、全事業者で経理業務の電子化が進められています。その要件には「訂正・削除履歴の確保」や「可視性の確保」とともに「検索機能の確保」が含まれており、検索性を確保することは電子データの取り扱いの上で基本とされていることがわかります。
遠隔の拠点ともリアルタイムで情報共有できるというのも、メリットの一つです。作業員にタブレット端末を配布し、指示書や日報をやり取りする企業も増えています。もちろん“共有が容易になる=情報の持ち出しも容易になる”ということであり、相応のセキュリティ対策は求められます。しかし、ルールや対策をきちんと講じれば、権限設定や記録が行える分、紙以上にセキュリティ性は高まります。書き間違いや読み間違いなど人的ミスも防止可能なため、「正確性」も高まるでしょう。
また、デジタル文書であれば文章だけでなく動画や図も容易に挿入可能です。マニュアルを電子化することで新人教育や技能継承の可能性が広がったという事例もあります。
紙資料を印刷、運搬、保管、転記、仕分けする際にはそれ相応のコストがかかります。災害、火事などで消失したり読めなくなってしまったりするリスクもある中で、それらを続けることに合理性はあるのかという観点で一度見直してみても良いのかもしれません。
ペーパーレス化には、もちろん注意すべき点もあります。
一つが、紙のメリットが失われるということ。訂正したり下線を引いたり色を塗ったりといった書き込みの自由度・手軽さはいまだに紙の方が上です。また、電子デバイスには画面の大きさという制約がある以上、一覧性もまだ紙の方に軍配が上がるでしょう。もちろん、近年はタッチパネルにより書き込みの自由度が高まったツールや拡張性の高いオンラインホワイトボードなども存在します。とはいえ、紙特有のメリットは残り続けるはずです。
もう一つはオンラインへの移行にあたってのコストがかかること。紙資料を整理し、分類し、まとめてスキャンするといった一連の作業の手間や、サービス導入のコストなど一時的には負担が増えることは否めません。また、新たなツールに従業員が慣れるまで学習コストや教育コストはかかり続けます。決して一度に全てをデジタル化する必要はなく、どれだけコストを分散するかは企業次第です。しかし、そもそも通常業務が忙しくなかなかペーパーレス化に労力が割けないという企業も多く存在するでしょう。
ペーパーレス化の成功に大事なのは、まず電子化によるメリットがコストを上回るような書類を見極めることです。まず一カ所だけでもペーパーレス化を進めることで、効果やイメージが浸透し、成功事例が生まれればその後の導入もスムーズになります。
図面、作業指示、マニュアル……工場で用いられる紙資料にはさまざまな種類が存在し、それぞれにペーパーレス化のポイントがあります。それらについて詳しく見ていきましょう。
設計プロセスでのペーパーレス化は、CADの普及により進んできています。2020年版ものづくり白書によると、「設計プロセス」における3Dデータ、2Dデータの活用率は以下の通りです。
設計プロセスでのペーパーレス化は、CADの普及により進んできています。2020年版ものづくり白書によると、「設計プロセス」における3Dデータ、2Dデータの活用率は以下の通りです。
設工程管理や進捗管理をクラウド化する取り組みも近年多く見られます。生産管理システムと紐づけ、リアルタイムに指示を行い、その結果をデータとして蓄積することで現場の機動力を底上げするだけでなく、デジタル経営の実現にまでつなげられる取り組みです。「工程表が見にくく、現場では結局印刷して使っている……」といった状況に陥らないよう、シンプルな画面構成のシステムを導入する、大型モニターを活用するなど見やすさを重視した工夫が求められるでしょう。
マニュアルやカタログ、日報などを電子化し、一括して管理することで、社内の情報共有のあり方は変わります。使用されるタイミングが限定されている資料や、反対に日々更新されるツールこそ「検索性」の有無で活用のしやすさが異なるからです。ただし、システム部門や管理者の判断でツールの導入を進めても現場での活用は進まず、紙が継続して活用されることもしばしば。導入時には現場社員の意見を代表する人物を巻き込み、積極的に参加してもらうことが必須となります。
ペーパーレス化はなぜ必要なのか、そのために何を注意すべきかについてまとめてまいりました。単に紙からデジタルにするのではなく、それによって「○○という効果を得る」という視点で改革を進めることが重要です。自社の利益とSDGsに掲げられている環境保護、両方を達成できるペーパーレスを目指せるといいですね。