「物流改革」は、現代の製造業界においても一大キーワードといえるでしょう。配送量の増加や人手不足に起因する「物流クライシス」に対抗するため、またサプライチェーンリスクを逓減しつつ物流コストを抑えるためには、物流、ひいては調達や生産のフェーズまで含めたロジスティクス全般をアップデートすることが求められています。本記事では、物流DXの現状と製造業の目指すべき方向性について最新の資料を基に解説します。
国土交通省が2021年1月に公開した資料『最近の物流政策について』では、物流DXの方向性として、「情報・コストなどの見える化」と「作業プロセスの単純化・定常化」が掲げられています。そのための手段として挙げられるのが以下のようなデジタル化の取り組みです。
これらを物流DXの片翼として、もう一つ重要だとされているのが「物流の機械化」です。その例としては以下のようなものが挙げられます。
単一のデジタルツールの導入でなく、各所で機械化を含めた環境のアップデートを進めることで既存のオペレーション改善・働き方改革への対応が果たせるだけでなく、物流分野全体のビジネスモデルの刷新にもつながるはずです。
従来、製造業において物流分野はどちらかといえば傍流とされ、開発・製造分野の刷新の方が優先されるきらいがありました。しかし、新型コロナウイルスの世界的流行やSDGsの盛り上がりを背景に、サプライチェーンマネジメント(SCM)の重要性が見直され、物流DXに取り組む機運も高まっています。そんな中で流通に関するデータプラットフォームとしてのSIPスマート物流サービスなど、大々的なプロジェクトも進められています。
公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会の『2020 年度 物流コスト調査報告書【概要版】』によると、2020年度の製造業における売上高物流コスト比率は5.48%でした。また、その58.5%を輸送費が、16.6%を保管費が占めています。
また、同調査において「効果が大きかった物流コスト適正化策」について尋ねたところ、多く寄せられた回答ベスト3は以下の通りでした。
やはり、“トラックでできる限り空気を運ばない”、積載率の向上のコスト適正化効果は大きいことが伺えます。それを実現するためのポイントといえるのが、DXにより物流ネットワークを整備することです。先に挙げた「情報・コストなどの見える化」と「作業プロセスの単純化・定常化」の両方がその実現を支えます。まずは積載率や非稼働時間、配送ルートをはっきりさせることから始めましょう。運行記録計やGPS、IoT機器などでデータを集計し、ダッシュボードなどで状況を見える化することで新たに見えてくるものがあるはずです。
物流とロジスティクスの違いはどこにあるのでしょうか。物流は、「輸送・配送」「保管」「包装」「荷役」「流通加工」「情報処理」の6大機能を持ち、その価値は生産者の基から消費者までものを届けることにあります。一方、ロジスティクスは元々軍隊用語で兵站(戦闘能力を維持するための後方支援活動)を意味する言葉であり、経営的な目線から調達→生産→物流の流れを一元管理し、サプライチェーン全体の最適化を図る活動を意味します。そのため、製造業では経営的視点からの物流DXについて語るとき、ロジスティクスという用語が用いられることが多くなっているのです。
ロジスティクスにはこれまでに3度イノベーションが生じてきたといわれており、現在はAIやロボティクス(すなわち、前述の「デジタル化」「機械化」)により、人手を介さずサプライチェーンを自動化・効率化する「ロジスティクス4.0」へ移行する途上にあります。ロジスティクス4.0へ移行するためには、局所的なデジタル化からサプライチェーン全体の改革へ視点をスケールアップすることが不可欠といえるでしょう。
物流DXの現在とその先の方向性について解説してまいりました。DXを中心とした大きな変化の途上にあるといわれる現在、物流、ロジスティクスの分野でも変革が進められています。物流アウトソーシングなども含めた広い可能性を視野に入れつつ、自社にとって最適なサプライチェーンのあり方を考えてみてください。