製品事業本部 マーケティング部 永濱 幸裕 氏
ホワイトワーカーの生産性が低いといわれる日本。創造性の高い仕事でも事務作業が多く、長時間ディスプレイを見て仕事をすることも珍しくありません。意外と知られていませんが、PCモニターの質は、仕事の生産性に大きな影響を与えるという調査結果もあります。有機ELディスプレイ(OLED)はその圧倒的な映像美から映像制作のプロユースとして活用されてきましたが、今回ビジネスにも活用できる限定モデル「Eyecio ™」がオリックス・レンテックの提供するレンタルに登場しました。Eyecioが仕事の生産性にどのような影響を与えるのか、開発元である株式会社JOLED広報の佐久間氏、マーケティング部の永濱氏に伺いました。
株式会社JOLEDは、世界有数の有機ELディスプレイパネルのメーカーです。ソニー株式会社とパナソニック株式会社の有機EL事業を統合し、2015年にJOLED社が設立されました。日本の最先端有機EL開発技術を集結し、次世代ディスプレイの未来を同社に託したのです。
JOLED社は2017年に世界で初めて印刷方式の高精細な4K有機ELディスプレイパネルを製品化しました。同社が展開するのが「OLEDIO」というブランドで、映像制作などのプロ向けや、医療用向け、車載用のディスプレイに活用されています。「当社の有機ELディスプレイパネルはLG電子製品やASUS製品、そしてトヨタ社のコンセプトカーにも採用されています」(佐久間氏)。
同社は製造ビジネスだけでなく、技術ライセンスビジネスについても力を入れています。「当社だけで製造しても普及に限界があります。そこで多くのメーカーにライセンスを付与して製造してもらうというビジネスモデルも展開しています」(佐久間氏)。
ここで次世代ディスプレイといわれる有機ELが生まれるまで、ディスプレイがどのような歴史をたどったのか教えていただきました。
ディスプレイの歴史は、ブラウン管(CRT)タイプのものから始まります。CRTの初期のころはグラフィカル機能がなく、単色しか表示できませんでした。奥行きのある箱型だったため、専用のラックに設置することもありました。
2000年代に入るとノートパソコンが普及するようになり、軽量・省スペースで電力消費の少ない液晶ディスプレイへ移行します。その後、バックライトにLEDを採用した液晶パネルや、量子ドットを採用した液晶パネル、プラズマディスプレイなど、さまざまなディスプレイの研究が進められてきました。
中でも次世代ディスプレイとして注目されるのが有機ELです。「次世代のディスプレイとしては、液晶ディスプレイの進化系と有機EL、この2つが有力とされています」と佐久間氏が語る通り、有機ELは液晶ディスプレイとよく比較されます。
液晶ディスプレイは、バックライトで照らす光を液晶素子で遮り、色フィルターを重ねることで色を出します。バックライトや色フィルターが必要なため、薄型・軽量とはいうものの、限界がありました。また、画像の発色はバックライトの色や明るさに大きな影響を受けるため、自然な色合いを出すには高性能なバックライトが必要で、コストがかさむという問題がありました。
それに対して有機ELは有機物質で自発光するため、バックライトや色フィルターが不要です。そのため超薄型・軽量が実現し、シートのように丸めたり、折りたたんだりと形状の可能性も広がっています。またピクセル単位で電流を調節して色味を出すことができるため映像本来の色味を表現できます。
有機物質の自発光という有機ELの仕組みにより、今までのディスプレイの概念を覆す製品が登場している。
有機ELは、主にスマートフォンやノートPC向けの小型画面、テレビ向けの大型画面、そしてPCモニターやサイネージ向けの中型画面の市場に分類されます。有機EL全体の市場は年々拡大しており、2021年には面積ベースで大型画面が小型画面の需要を超えました。「有機ELテレビの価格は液晶の約2倍であるにもかかわらず、市場は有機ELテレビに大きくシフトしています。それだけ有機ELの価値が支持されているのだと思います」(永濱氏)。
灰色が小型、青色が大型、オレンジ色が中型含むその他となっており、どの分野も拡大傾向にある。
「中型画面の市場も拡大傾向にありますが、現時点で中型画面のシェアが少ないのは、従来の有機ELでは量産できなかったからです」と佐久間氏は語ります。有機ELは蒸着方式での製造などが一般的で、小型画面にはRGB蒸着方式が、大型画面には白色蒸着方式が採用されていますが、どちらの方式も中型画面に採用するには生産効率に課題がありました。
そこで同社は従来の方式の課題を解消する生産効率の高い「印刷方式」を開発しました。2017年には世界初の印刷方式の有機ELディスプレイの製品化に成功。量産技術を確立し、2017年にはパイロットラインで、2021年3月には量産ラインで製品出荷を開始しています。「各社で印刷方式の研究は進んでいますが、量産化に成功したのは今のところ当社のみです」(佐久間氏)。
また世界トップクラスのパネルメーカーである中国のTCL CSOT社と資本業務提携契約を締結し、大型有機ELディスプレイを共同開発するなど、印刷方式を大型ディスプレイに適用する取り組みも進んでいます。
JOLED社はパネルメーカーのため、最終製品の製造を手掛けることは通常ありませんが、今回、印刷方式の有機ELディスプレイパネルの量産化を記念して、世界初の27インチ有機ELディスプレイ「Eyecio ™」(アイシオ)を発売しました。
Eyecioオフィスワークで一般的に使用する22インチよりも一回り大きいサイズ。目に優しく、作業領域を広くとることができる。誰もが一目でわかるほどの感動画質だ。
「あくまでもエンドユーザーの声を収集するテストマーケティングが目的なので、Eyecioが市場に出回ることはありません。主に当社の取引先や株主に提供しています」(永濱氏)という限定モデルなのですが、今回オリックス・レンテックで特別にレンタル提供できることになりました!
「ナレッジワーカーの方に使っていただき、使用感についてご意見を伺いたいと考えています」と永濱氏が語るように、同社ではビジネスシーンでの用途を提案しています。ナレッジワークで使う上でのメリットを紹介していただきました。
LCD液晶パネルと比較してブルーライトが40%カットされているため、長時間ディスプレイを見ていても目が疲れません。「すでにお使いいただいているお客さまからも、目が疲れなくなったと好評です」(永濱氏)。
27インチと通常のディスプレイよりも一回り大きく、4Kの高精細な画質となるため、作業の生産性が向上します。「特に最近ではテレワークのためにノートパソコンで仕事をしている方が多いのですが、ディスプレイが小さいため、生産性が低下しています。表計算で大量のデータを分析する時にEyecioを使っていただくと、情報量が多く、細かい文字まで鮮やかに見えるため、生産性が劇的に向上するのを実感していただけると思います」(永濱氏)。
会議室や共用スペースで複数の人が一つの画面を見る場合、どの角度から見ても同じ画質・色合いで画面を見ることができます。「液晶だと視野角が狭いというデメリットがありますが、Eyecioはどの角度から見ても非常にクリアに画面を見ることができます。視野角性は有機ELの他の方式よりも優れています」(永濱氏)。
JOLED社提供
豊かな色再現で高い画質が得られます。また高速動画応答により動きの速い動画も残像が少なくクリアに見ることができます。「本来の色味を再現できるため、社内でWebのデザインや動画制作を担当している方にぜひ使っていただきたいです」(永濱氏)。
JOLED社提供
JOLED社提供
軽くて設置が簡単なだけでなく、VESAマウントに対応しているため、市販のディスプレイアームを取り付けて、自由に設置できます。「置き場所を工夫することで、洗練された空間になります」(永濱氏)。
JOLED社提供
現在Eyecioはナレッジワーカーのオフィスワーク・テレワーク、コワーキングスペースや、企業の会議室のディスプレイとしても使われています。「テレワークでは、仕事の時はもちろん、オフの時間の映画鑑賞でも感動画質で楽しめるというメリットがあります」(永濱氏)。
すでに導入している企業様からは「業務効率が上がった」という喜びの声が次々に届いています。「つないで仕事をしたくなる、ワクワクして使えるディスプレイだと自負していますので、ぜひこの機会に感動画質と業務効率性を享受していただけたらと思います」(永濱氏)。
今後は、JOLED社のパネルを採用する製品の幅を広げることを目指しています。すでに製品化されている映像制作などのプロ向けや、医療向け、車載用のモニターだけでなく、柱に巻き付けるようなフレキシブルディスプレイやリフレッシュレートを高めたゲーミング向けなどの製品化も視野に入れています。「極薄・軽量であることから、鉄道・航空業界からのニーズも高まっており、すでに航空機の内装材を手掛ける企業と共同開発に着手しています」(佐久間氏)。
「Eyecioを使っていただくことで価値を実感していただき、印刷方式の有機ELを広める足掛かりになればと考えています」と佐久間氏が語る通り、同社が目指すのは、印刷方式の有機EL技術をデファクトスタンダードにすることです。「今後も今までにない技術を次々に生み出し、グローバルに普及させていきたいですね」と佐久間氏は締めくくりました。