パワー半導体は、一般的な半導体とは異なる役割を担う電子部品です。すでに私たちにとって身近な電子機器内で活躍していますが、EVをはじめとする最新技術を支える部品としても注目が集まっています。EV時代を支える重要部品ともいえるパワー半導体の特長と動向を見てみましょう。
パワー半導体は、高電圧・大電流を扱える半導体です。主に電力の供給や制御を行う電子部品として使われています。
そもそも半導体は、電気を通す導体と電気を通さない絶縁体の中間の性質を持つ物質であり、次のような形で電気の流れを制御できます。
電流が流れる方向を制御し、一方向にだけ電流を流す。
小さな電気を大きな電気に変える。
ある時は電気を通す、ある時は電気を通さないといったように制御する。
半導体にはさまざまな種類がありますが、特に整流を行うものをダイオード、増幅とスイッチングを行うものをトランジスタといいます。半導体と聞くとまずイメージするIC(集積回路)は、一つのチップにたくさんのダイオードやトランジスタを集めたものです。
このように電気の流れを制御できる半導体ですが、高電圧・大電流の電気を流すと熱が発生して高温になりやすく、故障の原因になります。そこで、半導体の構造を工夫して整流・増幅・スイッチングなどの機能を高電圧・大電流でも行えるようにしたパワー半導体が生まれました。パワー半導体は高電圧・大電流の電気を流しても電力損失が少なく、発生した熱も効率よく逃がせるように作られています。
パワー半導体には、大きく4つの働きがあります。
交流の電気を直流に変換する。
直流の電気を交流に変換する。
交流の電気の周波数を変える。
直流の電圧を変換する。
パワー半導体は私たちの暮らしと密接に関わっています。例えば、私たちが家電製品を使うために利用している電気は、発電所で作られたままの電気ではありません。発電所から変電所を経て家庭に届けられる電気は交流であり、直流で稼働する家電製品では使用できないケースがほとんどです。そこで、交流の電気を直流に変換するためにパワー半導体が働いています。
また、家庭には200Vや100Vの電圧で電気が供給されていますが、小型の家電製品にとっては電圧が大きすぎる場合があります。そのため、パワー半導体が間に入り、3Vや5Vといったそれぞれの家電製品に適した電圧に変換した上で電気を供給しているのです。
パワー半導体のもう一つの代表的な用途は、モーターの駆動制御です。ただ単に電気を供給するだけでは、モーターの回転を低速から高速まで高精度に制御することはできません。パワー半導体が電圧や周波数を変えたり、スイッチングしたりすることで、モーターの回転数を自由自在に制御しています。
パワー半導体は電力の供給や制御を担う重要な電子部品であり、私たちの身の回りのあらゆる電子機器で活用されています。また、高電圧・大電流を扱えるため、産業機器にとっても欠かせない存在です。
すでに私たちの生活に欠かせないパワー半導体ですが、近年さらに注目が集まりつつあります。その理由の一つは、自動車業界で世界的にEV化が進んでいることです。
電子機器の塊であるEVには、パワー半導体が多数搭載されています。特に、モーターの駆動制御を行うパワー半導体はEVが動くためになくてはならない存在です。そのため、EV化が進むにつれてパワー半導体の需要も伸びています。
また、パワー半導体自体の性能が向上していることも、注目を集めている理由の一つとして挙げられます。パワー半導体の一番の課題は、電力損失が少なからず発生することであり、材料変更や制御技術の向上、放熱性能の向上などによって電力損失を極限まで抑えるための開発が進められてきました。
例えば、EV向けのパワー半導体では、従来のシリコンを主材料とするものではなく、炭化ケイ素や窒化ガリウムなどを使った次世代パワー半導体と呼ばれる部品が採用されつつあります。従来のパワー半導体はモーターを制御する際の電力損失が大きかったため、一回の充電での航続距離が伸びず、EV普及の大きな課題になっていました。しかし、次世代パワー半導体は電力損失が少ないため、航続距離を飛躍的に伸ばすことができます。
このように、パワー半導体はEVの性能を大きく左右するほど重要な部品です。今後訪れるであろうEVの時代は、パワー半導体が支えていくといっても過言ではないでしょう。
パワー半導体は電力の供給や制御を担う電子部品であり、今後はEVのような最新技術も支えていくと考えられます。また、電力損失を抑えてエネルギーを効率よく使うという観点から再生可能エネルギーの分野からも期待されており、パワー半導体の需要はますます高まっていくでしょう。
パワー半導体は日本の半導体メーカーの存在感が強い領域でもあるため、動向には引き続き注目していきましょう。