半導体は私たちの生活に欠かせない存在ですが、実はその作り方を詳しく知らないという人も多いのではないでしょうか。半導体メーカーや半導体製造装置の動向がニュースで取り上げられることもあるため、ビジネスパーソンの基礎知識として知っておきたいものです。
そこで本記事では、いまさら人には聞けない半導体製造工程をあらためて解説します。
まずは、半導体とは何かを簡単に復習しておきましょう。
半導体とは、電気を通す導体と、電気を通さない絶縁体の中間の性質を持つ物質です。半導体はある条件を満たすと電気を通しますが、それ以外のときは電気を通しません。その性質を利用すると電気の流れを自由に制御できるため、電子部品を作るための材料として採用されています。
代表的な半導体は、シリコン(ケイ素)です。シリコンは地球上に多く存在する物資なので、安価に手に入ります。また、加工性も良く扱いやすいため、現在使用されている半導体材料のほとんどがシリコンとなっています。
本来、半導体というのはシリコンのような物質を指す言葉です。しかし、一般的には半導体で作られた電子部品や、IC(集積回路)やLSI(大規模集積回路)のような半導体チップも含めて半導体と呼ばれています。
私たちの生活は、さまざまな電子機器によって便利になりました。その電子機器の中枢を担っているのが半導体であり、私たちの生活は半導体によって支えられているといえるでしょう。
ここでは半導体製造の大まかな流れを設計、前工程、後工程の3ステップに分けてご紹介します。
一般的に、半導体製造工程といえばICのような半導体チップの作り方を意味します。半導体チップはシリコン製の基板上に微細な加工を施して作られており、膨大な工程を経てようやく完成します。半導体製造の全工程を細かく覚えておく必要はありませんが、大まかな流れだけでも知っていれば半導体に関する理解度が高まるでしょう。
半導体チップを作るためには、まずは求める性能を満たせる設計をしなければなりません。設計のステップでは、回路パターンの設計を行った後に、それを基にしてフォトマスクと呼ばれる原版を作成します。
半導体チップ上にどのような回路を、どう効率よく配置するかを検討します。求める性能を満たしているかを確認するために、シミュレーションを行いながら改良を重ねていきます。
回路パターンは非常に細かく、基板の上に直接配置できないため、設計した回路パターンを転写するためのフォトマスクを作成します。フォトマスクは半導体チップの出来栄えを左右する重要な要素であり、高精度な加工が行われています。
半導体製造工程では、基板上に回路が形成されるまでを前工程と呼んでいます。
シリコンの塊であるインゴットを薄くスライスして、ウエハーと呼ばれる基板を切り出します。切り出した後のウエハーは、形を整えた上で研磨してキズや汚れを取り除き、鏡のように仕上げていきます。
パターン形成の下準備として、ウエハーを炉に入れて表面を酸化させた上に、さまざまな材料の薄膜を形成していきます。その後、フォトレジストという感光剤をウエハーに塗布し、フォトマスクを使って薄膜上に回路パターンを焼き付けます。焼き付けられた回路パターン以外の部分を薬液で除去するエッチング工程を経ると、ウエハー表面に回路パターンが形成されます。基本的に半導体チップの回路は何層にも重なっているため、回路を作り込むためにはこの一連の流れを何度か繰り返す必要があります。
半導体チップの内部と外部を電気的に接続するために、電極用の金属をウエハーに埋め込みます。
前工程の最後に、すべてのチップに対してプローブによる導通検査や外観検査、寸法検査などを実施します。半導体製造では、生産効率を高めるためにウエハー1枚につき100個以上の半導体チップが同時に作られています。
後工程では、ウエハーから半導体チップを切り出した後に組み立てや検査を実施していきます。
ウエハーを切断して一つ一つの半導体チップに切り出していくダイシングを行います。切り出された半導体チップは、リードフレームと呼ばれる金属の枠に固定され、金線で接続します。さらに、キズや腐食から半導体チップを守るために樹脂でパッケージングすると、組み立てが完了します。
組み立て後の最終検査として、外観検査や電気特性検査などの各種検査を行います。検査に合格した半導体チップは出荷され、さまざまな製品に組み込まれることになります。
半導体製造には、他の業界でのモノづくりとは大きく異なるポイントが2点あります。
1点目は、クリーンルームでの製造が必須であることです。前工程・後工程ともに微細な加工が行われているため、異物が存在すると製品の品質に大きな影響を与えます。また、半導体チップにホコリなどが入るとショートしてしまう可能性が高まり、歩留まりの悪化を招きます。これらの理由から、半導体製造ではクリーンな環境を保つための細心の注意を払わなければなりません。
2点目は、半導体製造装置の性能が半導体チップ自体の性能や生産性に直結することです。半導体は生産量が膨大で要求品質も高いことから、人の手による生産ではなく、専用の半導体製造装置を使った自動化ラインでの生産が基本になります。半導体製造装置は上述した各工程に特化した形で作られており、多種多様な装置を最適に組み合わせることで半導体製造ラインが構築されます。半導体製造装置の性能は年々向上しているため、半導体チップの性能を高めたり、高速化や不良率の削減による生産性アップを目指したりするためには、継続的に装置を入れ替えていく必要があります。
直近では半導体不足が深刻化していますが、半導体の製造は極めて難しいものです。不足しているからといってすぐに供給量を増やせない理由の一つは、単純に人を増やせば生産数を増やせるという作り方ではないからです。このように、半導体製造工程についての知識があれば、ニュースを見聞きした上で推測できることが増えていくでしょう。
これからのIT社会では、半導体の重要度はますます高まっていきます。半導体に関する知識を持つことは、ビジネスパーソンの基本になっていき、半導体の知識を幅広く身につけつつ、常にアップデートする事が求められてくるでしょう。