2021年版のものづくり白書が、2021年5月に公開されました。経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省が共同で作成しているこの報告書は、日本の製造業の現状や今後についてまとめられており、製造業に関わる人であればチェックしておきたいものです。新型コロナウイルス感染症の影響や製造業のニューノーマルについても述べられており、今後の製造業を見通す上で重要な示唆を与えてくれます。
本記事では、2021年版ものづくり白書の要点を整理し、製造業の今後について考えていきます。
2021年版ものづくり白書では、最初に新型コロナウイルス感染症が製造業にもたらした影響について述べられています。2020年度の製造業企業の業績は悪化傾向にあり、先行きが不透明な状況が続くことから設備投資を控える企業が相次ぎました。また、全世界規模で感染が拡大した影響によって製造業のサプライチェーンは各所で寸断される事態になり、これまでのサプライチェーンのあり方を見直さなくてはならないという事実が突きつけられることとなりました。
新型コロナウイルス感染症以外にも、さまざまな社会情勢の変化によって製造業を取り巻く不確実性が高まる一方であることが触れられています。社会情勢の変化の具体例としては、米中貿易摩擦や大規模な自然災害、資源価格の変動、脱炭素・脱プラスチックなどの環境規制などが挙げられました。
また、不確実性が高まる時代の中で製造業が取るべき戦略として、「製造業のニューノーマル/レジリエンス・グリーン・デジタル」が提起され、この三つの観点から日本の製造業の生き残り戦略に資する動向分析が行われています。
ここからは、これからの製造業にとって重要なキーワードとなる「レジリエンス」「グリーン」「デジタル」について深掘りします。
レジリエンス(resilience)は、「回復力」や「弾性(しなやかさ)」を意味する言葉であり、ビジネスシーンでは困難な問題や危機的状況からすぐに立ち直ることができる能力を指して用いられています。
2021年版ものづくり白書では、製造業のサプライチェーンをレジリエント化することの重要性が述べられました。その理由は、新型コロナウイルス感染症のような世界的な感染症によって、生産活動や調達を継続できないリスクがあるということが明確になったためです。不確実性が高まる時代では、サプライチェーン全体を俯瞰しながら多方面でリスク対策を行い、レジリエンスを強化していくことが求められます。
レジリエンスを強化するための施策の例として、2021年版ものづくり白書で述べられている内容をまとめてご紹介します。
昨今では、世界的に気候変動問題への意識が高まっていますが、日本においても、2020年10月に菅政権が2050年までのカーボンニュートラル達成を目指すと宣言したことで、注目を集めました。
カーボンニュートラルとは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを指します。日本での進捗はまだまだこれからといった状況ですが、海外のグローバル企業の中にはサプライチェーン全体でカーボンニュートラルを達成するための取り組みを進める企業がすでに現れています。また、これらの企業の製品を積極的に選ぼうという意識が消費者の中に芽生えつつあり、今後もそういった動きは加速すると考えられます。
日本においては、2020年12月に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定されました、このグリーン成長戦略なども踏まえて、気候変動問題への取り組みを積極的に進めることが企業に求められています。
ものづくり白書の2020年版からすでに、製造業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性は述べられていました。しかし、多くの企業においてDXの取り組みは未着手または一部での実施にとどまっており、十分に進んでいるとはいえない状況にあることが2021年版ものづくり白書の中で触れられています。
コロナ禍で進んだリモート化の取り組みや、無線通信技術を活用した柔軟性の高い生産ラインの構築は、上述したサプライチェーンのレジリエント化においても大きな効果を発揮します。各企業にはデジタル技術の導入に伴うサイバー攻撃のリスク増加などに最大限配慮しつつ、あらためてDXの取り組みを深めていくことが求められます。
2021年版ものづくり白書では、年々厳しさを増すビジネス環境を乗り越えるために、「レジリエンス」「グリーン」「デジタル」の三つのキーワードを意識した変革が重要であることが提起されました。日本の製造業が国際的な競争力を維持・向上し続けるためには、これからの時代に合った形に生まれ変わっていかなくてはなりません。「レジリエンス」「グリーン」「デジタル」をニューノーマルとして取り入れていくことが、今後の製造業にとって重要な課題となるでしょう。