少子高齢化に伴い労働力人口が減少、企業にとっては人材確保が難しくなり、特にホワイトカラー人材の労働生産性向上がグローバルでの競争力向上に不可欠となっています。 こうした状況を踏まえ、2018年6月に「働き方改革関連法案」が可決、成立し、企業は2019年4月1日に施行される同法への対応が急がれます。
そこで、今回は企業が働き方改革を進めていく上でどんなことが必要かを考えてみます。
2018年6月に「働き方改革関連法案」が可決、成立しました。
働き方改革関連法とは、労働基準法をはじめ、労働規制に関連する8つの法律の改正で構成されています。 これにより、労働者が多様な働き方を選択できるようにすることを目的にしており、 代表的な施策に「時間外労働(残業時間)の上限規制の導入」「有給休暇取得の義務化」「勤務間インターバル制度」「同一労働同一賃金」「高度プロフェッショナル制度の創設」などがあります。
特に、注目されるのが、長時間労働を是正するための「時間外労働の上限規制の導入」です。原則として時間外労働の上限が月45時間、年360時間に定められました。 そして、臨時的な特別の事情がある場合でも、時間外労働の上限は月100時間、年720時間に設定され、「月45時間を上回る回数は年6回まで」などの上限が設けられました。
そして、違反した企業には、罰則として6カ月以下の懲役または30万円の罰金が科せられます。
このように、企業は法対応を進め、従業員の多様な働き方を支援し、現有人材の労働生産性を高めることで、企業競争力を向上させていくことが求められますが、実は、働き方改革は、人材確保の観点からも重要です。
というのも、ただでさえ優秀な人材を採用し、労働力を確保することが難しくなっていく中で、多様な働き方を支援し、 働きがいを重要視する会社であることを内外に訴えていかなければ、優秀な人材を確保することがますます難しくなっていくからです。
働き方改革を進めていく上で、例えば、残業時間の上限規制に対応するには、従業員の「働き方」の実態を正しく把握しておく必要があります。
残業時間の上限規制には罰則規定があることは上で述べたとおりですが、 それぞれの従業員の残業状況をマネジメントするためには、その月が終わってから実態に気づくのではなく、リアルタイムに従業員の就労状況を把握していなければなりません。
また、単月ごとの労働時間を集計すればよいわけではなく、半年や1年にわたってデータを蓄積していくことも必要です。
そこで重要になるのがIoT。モバイルやクラウド、ソーシャル技術などのテクノロジを活用し、従業員の入力の手間なく、 リアルタイムにデータを取得し、長時間労働の是正や多様な働き方に対応する仕組みを構築することです。 データによって労働時間の実態が可視化されれば、データを活用した人員の最適配置なども可能になっていきます。
また、ITシステムを整備していく上で重要になるのが「全体最適」の視点です。 例えば、メールやグループウエア、Web会議システムなど、個別のシステムやサービスを購入し、運用、サポートを受ける個別最適の視点では、 IT部門の運用負荷が高くなる上に、社外からの利用やセキュリティの設定など、会社のルールやポリシーなどに個別に対応しなければなりません。
「セキュリティと利便性」を両立していくこともポイントです。 多様な働き方を実現するには、働く社員が安心して使える仕組みが欠かせません。 安全性の観点から、利用するデバイスやアプリケーションを制限してしまうと、社員は便利なコンシューマー向けのクラウドサービスを「勝手に」利用し、 ファイルや情報のやり取りをはじめてしまう可能性があります。
こうした「シャドーIT」のリスクを軽減するためにも、全体最適の視点が重要なのです。
次に欠かせないのが、「俊敏性」や「スモールスタート」といったポイントです。 ビジネス環境の変化に柔軟に対応し、適切なIT投資を行うためには、「できるところから経験を積み重ねる」ことが肝要です。 クラウドの俊敏性などを活用し、スモールスタートで、ニーズに応じて拡張できる柔軟性も「小さな成功、失敗の経験を継続的に試行していく」には欠かせない要素といえるでしょう。
そして、「労働時間の短縮」「リモートワーク」ありきでなく、また、ITツールの導入だけで終わらせず、 働き方改革を成功に導くには、その企業にとって「何を目指すか」というゴール設定が大事です。
自社のビジネスに求められる「ゴール」が何かによって、達成のために必要なITツール選びも変わってくるからです。
それとともに、「企業文化の醸成」を図っていくことも重要です。 例えば、産休に入った社員がスムーズに復職できるよう支援する制度の整備なども、多様な働き方を組織に定着させるためには欠かせないからです。
働き方改革の定着には、トップのコミットのもと、ITツールと制度、文化の両面で環境を整備していくことが肝要です。 ITツール、制度や文化のどれかが欠けた状態では、例えば見かけ上、社員の残業時間が減ったように見えたものの、 実は社員が仕事を家に持ち帰っているだけで、長時間労働の実態は変わっていなかったということが生じかねません。
そして、働き方改革の先には、IT部門の役割も変わっていきます。 テクノロジが一部の専門家のものではなく、誰でも容易に、安価にクラウドやAIなどのテクノロジが活用できるようになりました。
こうした時代には、会社のリスクコントロール、従業員の働き方の多様化というニーズに対して、IT部門がリーダーシップをもって課題を解決していく必要があるのです。 働き方改革を通し、企業ITのプロフェッショナルとして、IT部門が企業変革をリードしていく役割を果たしていくことが理想的です。