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製造業に求められるレジリエンス その意味と実現方法を考える

レンテックインサイト編集部

モノづくり業界の現況について経済産業省、厚生労働省、文部科学省が連携して、2001年からレポートを続けてきた「ものづくり白書」。2021年(令和2年度)版 において、製造業のニューノーマルを実現するための軸として提示されたのが「レジリエンス」「グリーン」「デジタル」の三つでした。
この中でも一般になじみが薄く具体策が周知されていないのがレジリエンスではないでしょうか。
本記事では、なぜ必要とされるのか、具体的にはどのような理想像があるのか、どのような施策に取り組むべきなのかなどレジリエンスを体系的に理解するためのポイントを解説します。

レジリエンスとは何か? なぜ今求められるのか?

「レジリエンス(resilience)」は“回復力や反発力を意味する英単語”で、転じて個人や企業が逆境に立ち向かうための力を意味します。
2008年のリーマンショックをきっかけとした金融危機や2011年の東日本大震災など、企業活動を従来通り行うことが困難になる想定外の事態を我々は何度も経験してきました。そのような事態に対する「備え」をしておくというのがレジリエンスの中心的な考え方です。2013年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)のテーマは「レジリエント・ダイナミズム」でした。これは、逆境への弾力性を持ちながら、同時に産業全体のダイナミックな構造改革も進めていくという目標を反映しています。

そして、2019年末より2021年12月現在まで続くコロナ禍やそれをきっかけとしたサプライチェーンの分断により、「レジリエンス」への注目はこれまで以上に高まることになったのです。

今求められるレジリエンスとは? アフターコロナのSCMに求められるポイントは?

コロナ禍で新たに明らかになったのが、コロナ禍のような全世界的な危機が訪れた時、グローバル化したサプライチェーンすべてにリスクが発生するということです。
これまでの局所的な災害を想定したBCP(事業継続計画)を刷新することが、企業には求められるようになりました。
また、ニューノーマルでの生き残りに向けて重視すべきレジリエンスの勘所として指摘されているのが「サプライチェーンの可視化・強靭化」です。

今、必要な材料はどこにあるのか、代替品の手配は可能なのか、いつ事態に復旧の目途が立つのか、全世界的な緊急事態においても事業を継続するためには、何よりもまずサプライチェーンをいつでも把握できる状況を確保することが求められます。

言い換えれば「サプライチェーンマネジメント(SCM:Supply Chain Manegement)」を強化するということですが、全世界的な危機へのレジリエンスを想定するならば効率を追求しシンプル化・グローバル化を追求するだけでなく、多元化や国内拠点の確保という観点も重要になってくるでしょう。

要するに、変化に対応可能なことを前提に、「調達」「生産」「販売」「消費」にまで至る各段階、その全体を司る意思決定、間をつなぐ物流までカバーしたサプライチェーンの管理体制を構築することが求められます。

例えば東日本大震災の影響により、製品の生産が2週間止まり減産が半年以上続いたというとあるグローバル企業では、その原因がそもそも被災地域の拠点におけるサプライチェーンを本部が把握しきれなかったことにあると推定。全1次サプライヤーに取引先情報の開示を依頼しました。そして、そのうち災害時にリスクとなりうる拠点・品目を洗い出しそれらを集約した独自のSCMシステムを開発したといいます。その効果はその後の災害へのレジリエンスで発揮されたとのことです。
ただし、そういった企業であっても想定しえない事態が生じたのが今回のコロナ禍でした。

アフターコロナのSCMでは、AIを用いた需給予測やIoTセンシングによる国外拠点も含めたリアル拠点の可視化、それらでキャッチした情報に即座に対処し変化できる体制の構築と危機状況におけるシナリオに切り替えられるネットワークの構築がポイントとなるはずです。

製造業の「地産地消」を実現するために求められる“バランス感覚”

アフターコロナのレジリエンスを考えるうえで良く取りざたされるキーワードの一つが製造業の「地産地消」というフレーズです。原料の調達から製造・販売まで国内で完結させることで、輸送にかかるリードタイムを短縮し、国外輸送が難しくなるというサプライチェーン上の大きなリスクを排除します。また、為替レートの変動リスクを避けられることや関税がかからないといったメリットも指摘されています。

ただし、勝手の違う国内で一からサプライチェーンを構築することの難しさ、十分な品質が保てるのかという問題、技術流出への懸念など地産地消への壁となる要素も少なくありません。

現地拠点ごとにネットワークを構築し、データをシステム上に集約、本社が統合管理の機能を担うという状態を理想とするならば、そのカギとなるのは現地に最適化したネットワークを構築しつつ、必要なデータを取得し品質を確保するための標準化は徹底するというバランス感覚です。そのために、まずは日本国内でそのモデルとなるサプライチェーンを構築できるかどうかが問われています。

危機を変化の糧とするために

製造業に求められるレジリエンスとは何かについて論じてまいりました。ほとんどの企業にとってSCMについて見直した、見直すべきだった機会はこれまで何度かあったはずです。しかし、『2021年版ものづくり白書』によると、調達先の情報の定期更新を実施している企業は調査対象全社の半数に満たなかったとのことです。
未曽有の事態を奇貨として、今から変化に備えていきましょう。

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