かんばん方式、三現主義、なぜなぜ分析……80年代、日本がものづくり大国として成長を遂げた原因のひとつとして注目を集め、今でも世界中で実践、研究されているのがトヨタ生産方式(TPS)です。みなさんは、もはやトヨタ生産方式は古くなってしまっているのではないかと考えてはいませんか?
トヨタ生産方式の有用性は健在であり、むしろIoT・AIなどデジタル技術の可能性が広がったからこそより効果を高めることが期待されます。
本記事では、今こそ学びたいトヨタ生産方式(TPS)の基本を取り上げます。明日からの業務にぜひご活用ください。
“トヨタ生産方式は「ジャストインタイム」と「自働化」を2本柱とした経営思想である。”
上記のように、トヨタの公式サイトには明記されています。
ジャストインタイム(JIT)とは、製品が発注されてからムダなく効率的に生産するという理念のことです。ここでものをいうのが”かんばん方式”。仕掛け、引き取り、特殊など作業ごとに指示を明記した「かんばん」を引き継ぐことで、生産管理と作業の効率化を同時に実現する手法です。トヨタでは製品の保管場所を「ストア」といい、ストアを起点とする工程の流れをかんばんで管理することで、適切な在庫管理を実現しています。
また、トヨタの自働化はにんべんのついた「自『働』化」です。その根底には“機械に人間の働きを実現させる”という思想があります。にんべんのついていない、単なる自動化では、異常が発生しても機械はお構いなしです。それでは最終的な自社、ひいては顧客の利益につながりません。一方、「自働化」では、まずカイゼンを繰り返すことで人間がロボットに作業を引き渡すことができる仕組みを作ります。その上で、設備や製品に異常が見つかれば、ただちに機械が停止する状況を実現するのです。
現地・現物・現認を3本柱とする“三現主義”では、製品と最も近くで接する現場で事実をもとに動くことが求められます。また、“なぜなぜ分析”は問題解決のための手法です。機械の停止や不良品の発生といった問題が発生した場合に「なぜ?」を5回繰り返し、原因を深堀することで真の原因発見につなげます。
トヨタ生産方式はリーン生産方式、あるいはジャストインタイム方式と呼ばれることもあります。
ここまでご紹介したようなトヨタ生産方式の考え方について「すでに知っていた」という方も多いのではないかと思います。
しかし、個々の手法を知っているだけでは、トヨタ生産方式の真価は発揮されません。トヨタ生産方式は「脱常識」で付加価値を生み、他社にない競争力を発揮するという理念に裏打ちされています。
そのため、トヨタ生産方式をそのまま「常識」として飲み込んでしまうことは、ある意味その理念に反することなのです。
例えば、ジャストインタイムの手法は、“欠品を防ぐために在庫を増やす”という常識を疑うことで成立しています。在庫が過剰になれば保管コストや廃棄リスクが高まるだけでなく、管理が手薄になり結果として欠品が増加する自体も起こりえます。そこで、生産効率を高め、常に在庫状況や部品の使用量を適切に保つ必要がありました。その情報を把握するためのツールとして「かんばん」が用いられるようになったというわけです。
すなわち、重要なのは在庫を「多く持つ」ということでも「持たない」ということでもありません。適正在庫を保つための仕組みを構築するということなのです。
IoT(モノのインターネット)により、在庫量や温度、人流といったデータを把握することで発生する効果のひとつは、数字という我々の常識から解放された事実を知ることで“常識を疑う根拠”が得られることです。
これが、トヨタ生産方式とデジタル技術の相性が良いと考えられるゆえんです。自働化を実現するために故障を検知するためにも、問題が生じた際、根本にある原因を突き止めるためにもIoTやAIは力を発揮してくれます。
それでは、実際にトヨタ自動車株式会社ではどのようにDXが進められているかを見てみましょう。
経済産業省がPwCコンサルティングに依頼して制作した報告書によると、トヨタ自動車株式会社では下記5点を目的として工場IoTを実施しているということです。
IE化とは、Industrial Engineering(インダストリアルエンジニアリング)化の略で、生産管理におけるムダを削減することを意味します。上記の取り組みの背景に「デジタル技術を使ったトヨタ生産方式」という考えがあると、報告書には明記されています。
いずれも一見して特別なことをしているようには感じられないのではないかと思います。しかし、それこそが“DXの実現には何か特別なことをしなければならない”という考えからの脱常識の理念が働いている証拠です。
報告書には、“ムダなデジタル化をせず、データの収集や蓄積にもジャストインタイムの考え方を反映していること”が同取り組みの工夫として挙げられています。
そう、データも在庫と同じく過剰になれば管理しきれず、不足すれば役に立ちません。重要なのは、やはり適正なデータ活用のあり方を実現できる仕組みづくりに邁進することなのです。
知っているようで意外と知らない、トヨタ生産方式(TPS)の基本とDXとの関係について解説いたしました。
時代は変わっても、ものづくり企業に求められるものは変わりません。デジタル技術をいかに戦略を実現するための道具にできるかが、DXの成功には深くかかわります。
トヨタ生産方式が世界の企業に研究され手本とされたように、21世紀にふさわしいモノづくりのあり方を模索し、私たちの手で日本の製造業を盛り上げていきましょう!