ホームIT製造業のIT投資はコロナ禍で増えたのか? データで見るものづくり企業の現在

IT Insight

製造業のIT投資はコロナ禍で増えたのか? データで見るものづくり企業の現在

レンテックインサイト編集部

新型コロナウイルスの世界的流行が始まってからすでに1年半以上が経過しています。業績、働き方、企業戦略など多くの点で、企業はさまざまな変化を強いられました。そういった変化は市場全体のデータにどのように反映されているのでしょうか?
政府や企業の最新データをもとに、特にIT投資に注目してものづくり企業の現在をあぶりだします。

製造業のIT投資はコロナ禍で増えたのか?

早速製造業のIT投資額から見ていきましょう。
一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会が毎年発表している「企業IT動向調査報告書」によると、2021年度の「素材製造」業のIT予算の増減における予測DI値は24.4、「機械器具製造」業の予測DI値は20.1でした。
DI値とは、「Diffusion Indexes(ディフュージョン・インデックス)値」の略で、今回の場合、アンケートに対しIT予算を「増やす」割合から「減らす」割合を差し引いて求めた値です。
すなわち、プラスであれば「IT投資の増加」、マイナスであれば「IT投資の減少」を示すことになるため、プロセス製造にあたる「素材製造」、ディスクリート製造にあたる「機械器具製造」ともにIT投資額は数値の上では増加していると考えられます。

ただし、より詳細に内訳を調べれば「輸送用機械器具製造業」のように、DI値がマイナス値(-4.7)を記録している業種も存在します。同資料ではコロナ禍で業績に受けたダメージがDI値にマイナスの影響を与えていると分析されています。

また、予算の振り分けに目を向けると、2020年度計画のIT予算増加理由トップは「基幹システムの刷新(41.7%)」で、それに続くのが「デジタル化に向けた対応(38.8%)」「コロナ影響による基盤整備(32.4%)」でした。2021年度予測では「コロナ影響 による基盤整備」が外れる代わりに「新規システム導入(32.4%)」が上位3回答にランクインしており、2020年度内にデジタル基盤を整え、2021年度には新規の取り組みを開始しようと考えている企業が少なくないことがわかります。

IT投資に限らない設備投資に向ける意欲は「製造業」が9業種中トップ

続いて、製造業界のITに限らない設備投資全体に目を向けてみましょう。
帝国データバンクの調査によると、2021年度(2021年4月~2022年3月)に設備投資を実施する予定が「ある」企業の割合は70.1%でした。この中にはすでに実施した企業、実施を検討中の企業も含まれます。
これは2020年度の調査から9.2ポイント増加した値であり、調査(2021年4月)時点の製造業界はマクロ的にはコロナ禍からの回復を見据え、投資を増加させる予定であったことがわかります。なお、この値は、「農・林・水産」「金融」「建設」などに分類された9業種中最高であり、他業種と比べても製造業界の2021年度の設備投資へ向けた意欲が高かったことがわかります。

ただし、この背景には、コロナ禍により2020年度の設備投資額が減少したことからの反動もあるでしょう。「2021年版ものづくり白書(経済産業省・厚生労働省・文部科学省)」では先行き不透明なコロナ禍の状況を受けて、2019年まで増加していた製造業界の設備投資額が2020年に大きく減少したことがレポートされています。

業種を問わずとった「予定している設備投資の内容」についてのアンケートでは「設備の代替(41.0%)」がトップで、それに「既存設備の維持・補修(33.2%)」「情報化(IT化)関連」30.3%が続きました。とはいえ、「1,000人超」など規模の大きい企業では「情報化(IT化)関連」がトップとなったことも報告されており、企業規模の大きい傾向にある製造業では「情報化(IT化)関連」の割合はもう少し高まることが推測されます。

先行き不透明な状況だからこそ、今後も確実に進んでいくであろうIT化に投資する傾向はむしろ強まったのではないでしょうか。

BCPの策定率、基幹システムの導入率は?

「2021年版ものづくり白書」において、製造業のニューノーマルの軸は「レジリエンス」「グリーン」「デジタル」の3本であると明記されています。
レジリエンスとは、自然災害など大きな環境の変化が起こった際に企業や個人が適応し、回復する力のこと。そもそも東日本大震災などの自然災害を受けて、サプライチェーンリスクへの対応、BCP(事業継続計画)の策定などが重視されるようになり、レジリエンスが一つのキーワードのように扱われるようになりました。

同資料では「我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)のデータを引用の上、BCPを策定する企業が2020年には49.1%と半数近くなり、2016年より20%近く増加したことを取り上げています。コロナ禍を受けて2021年度以降、その割合はより大きくなることが予想されます。

また、「令和2年度製造基盤技術実態等調査我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査報告書」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)ではERPといった基幹システムの導入状況についても調査が行われており、「自社向けに独自に開発された基幹システムを導入している」企業は44.7%、「独自開発を避けてパッケージのシステムを導入している」企業は41.0%と報告されています。

基幹システムの導入において“独自システムかパッケージか”はよく議題に上がるポイントです。両者は拮抗しつつも、現状では独自システムの企業がやや多いという情報がこのデータからは読み取れます。

未来を見据えた投資はコロナ禍を経ても高い水準を保っている

コロナ禍を経た製造業の現在の状況について正確に把握するために知っておきたいデータをまとめてご紹介しました。
コロナ禍によるダメージは大きく、ものづくり企業の体力にも確実に影響は及びました。しかし、未来を見据えた投資は高い水準を保っていることが各種データから伺えます。IT投資はその代表的な投資対象の一つです。
製造業のニューノーマルに対応できるよう、先進事例を引き続き取り入れていきましょう。

IT Insightの他記事もご覧ください

Prev

Next