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スマートグラス、ドローン、AR・VRさらに広がるデジタル技術の現場活用

レンテックインサイト編集部

 皆さま、こんにちは。FA(ファクトリーオートメーション)・自動化、さらには製造業のDX・デジタル化の専門紙「オートメーション新聞」の編集長をしている剱持知久(けんもちともひさ)です。レンテック・インサイト連載9回目は、「現場でのデジタル活用の新展開」について考えてみます。

製造業DXやデジタル化、スマートファクトリーの取り組みについて、これまでは協働ロボットやAI、IoTが話題の中心となっていましたが、ここに来てAGVやAMRの導入が増えてきて、また一つ新たな展開を見せ始めています。さらにはスマートグラスやドローン、VR・AR、ローカル5Gを使ったPoC(Proof of Concept=概念実証)がスタートし、デジタルツールを使った現場改革も新しいステージに突入しています。

富士通小山工場、ローカル5G、4K、MRの現場活用

富士通は、ネットワーク機器の製造拠点となる栃木県の小山工場にローカル5Gのネットワークを構築し、AGVや高精細カメラ、MR(ミックスドリアリティ)を活用した現場作業の自動化や遠隔支援などをスタートさせました。
部品や製品の運搬作業は電波の到達距離が長い4.7GHz帯の5Gネットワークを使い、AGVとリアルタイム通信をすることで高精度の位置測定と走行制御を行い運搬作業を自動化。さらに作業者の組み立て作業については、広帯域で大容量データ通信ができる28GHz帯の5Gネットワークを使い、高精度の4Kカメラで撮影した作業の様子をエッジ層に送ってAIで解析し、作業者が正しく作業を行なっているかのモニタリングやチェックを実施しています。
また作業者がマイクロソフトのMRデバイス「HoloLens」を着用して、遠隔から熟練者や開発者による作業指導や支援を受けられる仕組みも実施。ローカル5Gを活用することでMRデバイスへの大容量データの描画をリアルタイムに実行でき、スムーズな遠隔からの作業指導や支援の効率アップに成功しているそうです。

日本から海外工場へスマートグラスで遠隔作業支援

NECは日本サニパックのインドネシア工場にスマートグラスとAR技術を使った遠隔作業支援ソリューションを導入。技術者が日本にいながらにして海外の現地工場の作業を支援し、教育をする仕組みをテストしています。
スマートグラスを装着したインドネシア工場の作業員から送られる映像をもとに日本の技術者がリアルタイムに業務を支援。日本の技術者が共有されている映像に文字や矢印を加えて作業指示を行い、インドネシアの作業者がそれを見て作業を実施。ARと音声で密なコミュニケーションと作業支援を実現しています。

プロジェクションマッピングとカメラを使った作業支援と実績収集

OKIは、トヨタ自動車へ映像とカメラで作業指示と実績収集を同時に行う「プロジェクションアッセンブリーシステム」を納入。エンジン生産を担う下山工場で2020年7月から本格運用が始まっています。
自動車エンジンの生産では似たような形状の部品が多く、組み立ての際に取り違える可能性があります。それに対してプロジェクションアッセンブリーシステムでは、プロジェクターで作業台や棚に作業指示を投影し、同時に作業の様子をカメラで撮影して実績を収集。作業の効率化と見える化の両方を一度で実現しています。
同工場ではそれまではLEDスイッチによる作業指示システムを使っていましたが、プロジェクターにすることで部品の配置や組み立て順序を変えた時の対応がやりやすくなり、その点も評価されたとのことです。

プラント保全にドローン活用

また工場、特にプラントではドローンを使った保全業務の効率化も始まっています。
老朽化するプラントの増加と保安作業員の減少が問題となっており、万が一の災害やトラブル発生時には大事故につながりかねないことから、以前から経済産業省と消防庁、厚生労働省はプラント保安分野でのドローン活用を促進してきました。2019年にはプラントでのドローン安全活用に関わるガイドラインと、プラントの危険区域を精緻に設定する方法として防爆ガイドラインをまとめ、プラントでのドローン飛行環境を整備。さらにはプラント各社と連携してドローン活用を進め、その事例も公開しています。
一例を挙げると、化学メーカーのJSRはプラントの設備点検にドローンを活用。2016年から実証実験をスタートし、配管や設備の外面腐食などの点検を人による目視からドローンに置き換えています。人が接近できない場所の点検やメンテナンス期間の短縮などのメリットがあったそうです。

数年前にブームとなったデジタル技術がいよいよ現場で花開く

AR・VR、スマートグラス、プロジェクションマッピング、ドローン、AGVやAMR。いずれも先進的な技術ですが、決して目新しいものではありません。すでに一般的に名前が知られているものがほとんどで、「今さらドローン?」なんて印象を持つ人もいるかもしれません。
それもそのはず。世界的な調査会社ガートナーが毎年発表している先進テクノロジーのハイプサイクルでも、2014年にはすでにこれらの技術は「過度な期待のピーク期」に位置付けられていました。
しかし今回は、必要以上に過熱した期待とブームを経て、地道に技術を磨き、導入環境も整備され、数年が経って再浮上してきました。前回は夢物語も含んだバズワード、一過性のブームでしたが、今回は地に足のついた状態で、満を辞しての再登場。どれだけの効果を上げてくれるのか、とても楽しみです。

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