自動運転を実現する技術として、LiDAR(ライダー)が注目されています。LiDARは自動運転以外にもさまざまな用途で利用されている技術であり、高精度に測定ができるセンサとしてこれからも需要が高まっていくでしょう。
本記事では、LiDARの仕組みや現在の活用例に加えて最新動向についても解説します。
LiDARはLight Detection and Rangingの略称で、直訳すると「光による検知と測距」という意味です。レーザー光を使ったセンサの一種であり、対象物までの距離や方向、形状を測定できます。
LiDARによる測定は光の反射を利用したものです。光源から照射したレーザー光が測定対象に当たって跳ね返ってくるまでの時間を計測し、そこから距離や方向を測定するという仕組みになっています。LiDARで使われるレーザー光には赤外線や可視光、紫外線などがありますが、赤外線を使ったものが最も普及しています。
LiDARでは光束密度が高く極めて短い波長のレーザー光を使って測定するため、小さい物体であっても高精度に測定できるという特長があります。当初は気象学などで発達した技術ですが、それはLiDARが大気の特徴を検知できるほど高精度なセンサだからです。
また、LiDARのもう一つの大きな特徴が三次元の点群データとして情報を取得できることです。レーザー光の反射によって得られた測定対象物の座標データは細かい点の形で表されますが、それらの点を集めることで測定結果を立体的に把握できます。レーザー光の反射率によって測定対象物の形だけでなく色も検知できるので、自動運転で道路と白線を区別するといったことができるのです。
LiDARにはさまざまな種類がありますが、大きく分けると回転式と非回転式の二つがあります。回転式は360度を一台のLiDARで測定できる優れた方式ですが、サイズが大きくなって設置場所に困る事や、デザイン性を損ねるというデメリットがあります。非回転式は特定の方向の測定しかできないものの、小型化できるので設置の自由度が高いという特徴があります。現在は非回転式のLiDARを複数台組み合わせることで測定範囲を広げる使い方が一般的です。
LiDARはもともと地質学や気象学の分野で活用されていた技術ですが、高い検知精度が注目されるようになり、今ではさまざまな分野で応用されています。ここでは、LiDARの活用例として5つの用途を紹介します。
LiDARは自動運転の実現に欠かせない技術として期待されています。自動運転で使用されるセンサとしては他にカメラやミリ波レーダーなどがありますが、カメラは悪天候に不向き、ミリ波レーダーは物体の細かい認識が不得意、といったようにそれぞれ弱点があります。カメラやミリ波レーダーの弱点を克服するセンサとしてメーカー各社はLiDARの研究開発と実証実験を進めています。
近年のロボットはAIなどを搭載することで自律移動が可能になっていますが、ロボットにもLiDARの技術が使われています。家庭用のロボット掃除機や産業用の自動搬送車(AGV)、サービスロボットの中にはLiDARを使って周辺環境を把握し、移動しても人や物に当たらないように制御しているものがあります。
LiDARはスマートフォンにも搭載されることがあります。例えば、iPhoneの上位モデルはLiDARを搭載しており、写真撮影する時に被写体との距離を正確に測定してうまく背景をぼかすといった使い方がされています。他にも、LiDARで物体の位置関係を正確に把握することで、AR(拡張現実)で違和感なくコンテンツを表示するという活用方法もあります。
LiDARを自動車や航空機に搭載して移動させることで、移動したエリアの地形データを取得するという使い方があります。山岳地帯を上空から簡単に測量したり、沿岸部では水深まで測ったりとLiDARによる測量は利便性の高いものです。測量によって得られた地形データは都市計画や環境整備などで幅広く活用されています。
レーザー光を上空に照射し、浮遊する粒子状物質に反射する光を測定することで大気汚染のモニタリングもできます。例えば、日本では黄砂の分布をLiDARを使用した計測システムで把握し、飛来経路などを研究しています。環境問題への関心が高まっているため、今後はさまざまな大気汚染物質の研究に使われると予想できます。
LiDARの市場規模は自動運転向けの技術開発に伴って成長しており、2025年には38億ドル規模にまで拡大すると予測されています。2019年は16億ドル規模だったことを考えると、短期間で大幅な成長を遂げることになりそうです。
LiDARが普及するための課題はサイズとコストでしたが、自動運転向けで参入するメーカーが増えた結果、低価格なLiDARも販売されるようになってきました。LiDARで測定するための視野を柔軟に変更する最新技術も開発されており、特定の方向しか測定できないという非回転式LiDARの弱点を補えるかもしれません。また、LiDARと他のセンサを組み合わせることで新しい技術を生み出す動きもあります。例えば、LiDARとカメラで取得したデータをかけ合わせることで高解像度の3次元画像を作成するといった用途です。自動運転の場合、1つのセンサだけで周囲の環境を正確に把握するのは困難ということで、現在は複数のセンサを組み合わせるのが基本になっています。
また、日本の電子部品メーカーが世界最小サイズでかつ最長測定距離200mという高精度なLiDARの開発に成功したと発表しており、日本のものづくり技術がLiDARの開発においても発揮されています。LiDARが小型化すれば搭載できる製品が増えるため、LiDARがさらに普及するきっかけになることでしょう。
LiDARは自動運転だけでなくさまざまな用途で活用されている技術であることがご理解いただけたと思います。LiDARの優れた性能はあらゆる分野でのセンシングを進化させることでしょう。自動運転向けの開発に伴って日々技術が進化しているので、今後のLiDARの発展に期待したいものです。