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AIブームの成り立ちと、製造業におけるAI活用

レンテックインサイト編集部

 この3年ぐらいでAI(人工知能)が急速に普及し、実際に業務として運用されている事例が次々と出てきています。 そもそもAIとはどういうものだったかを簡単におさらいしてから、製造業でのAIの活用事例について解説します。

AIとは

 AIとは何でしょうか?実はその定義は研究者によって千差万別です。 そもそもAIの研究領域は多岐にわたっており、コンピュータサイエンスはもちろん、大脳生理学、生物学、心理学など多くの学問の研究者が関わっています。 研究者たちの関心がそれぞれ違うため、AIの定義も違うのです。
 総務省はこのような事情を踏まえた上で、「AIを『知的な機械、特に、知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術』と一般的に説明するにとどめる」(『平成28年版 情報通信白書』)としています。 本稿でも、この総務省の説明をAIの定義として採用することにします。

 AIはコンピュータの黎明期である1950年代から研究されてきました。 しかし、当時は単純な問題を扱うことができても、複合的な要因の絡む問題を解くことができないなど、いくつかの原理的な問題が解決できないことが明らかになり、1970年代に急速に下火になりました。 2回目のブームは、1980年代に起こりました。このときは特定分野の専門家を代替するエキスパートシステムの開発が盛んに行われました。 しかし、条件分岐のルールおよび必要な情報を全て入力する必要があり、適用分野がかなり限られたものとなったため、1995年頃にはブームが去ってしまいました。
 その後しばらくの間、一般的なITエンジニアたちの間では、少なくとも業務システムでのAIの活用は現実的ではないと考えられていました。

2010年代になって急激に浸透したAI

 しかしAIの研究者たちは諦めていませんでした。 スタンフォード大学が毎年開催しているILSVRC(ImageNet Large Scale Visual Recognition Competition)という画像認識精度を競うコンクールで、 2012年にトロント大学のチームが、従来のエラー率を10%も引き離す快挙を成し遂げました。
 このときに使われた技術がディープラーニング(深層学習)でした。 この成果は、Googleによる猫画像の認識(Googleの猫)に結びつきました。 2016年6月、Googleは人間の脳を模したコンピュータネットワークを構築し、1週間にわたってYouTubeの画像を見せ続けたところ、猫の写真を見分けることができるようになりました。] このニュースは、世界中に衝撃をもって受け止められ、「Googleの猫」と呼ばれました。 「Googleの猫」を大きなきっかけとして再びAIのブームが起こり、今に至っています。

 ディープラーニングは、機械学習の一種です。エキスパートシステムでは、ルールを全て人間が記述する必要がありましたが、機械学習では特徴量という認識のための目安を与えると、 あとは学習データを使って学習させることで認識ができるようになります。ディープラーニングが従来の機械学習と根本的に違うところは、特徴量も学習データから自律的に読み取るということです。 より人間に近い学習の仕方をするわけで、ディープラーニングは機械学習の一種でありながらも、機械学習を発展させたものと言えるのです。

ディープラーニングを実現するための多階層のニューラルネットワーク(人間の脳の構造をまねた数理的なモデル)の考え方は1950年代から存在しましたが、 コンピュータの性能が低くて実現できませんでした。2010年代になってようやく理論に現実の機械が追いついたのです。

最近のAIの活用例と今後の期待および課題

 AIビジネスでの活用事例としては、例えば製造業における予知保全が挙げられます。 予知保全とは、故障が起こる前にその兆候を検知し、事前の部品交換などが行われることです。
 たとえば製造機械であれば、定期メンテナンス等で機械を停止させる時間が大幅に短縮され、保守員の出張も減るため、保守費用がトータルで安くなります。 また運送機械では、重大なトラブルを未然に防ぐことで、ダイヤ遵守や事故防止を実現し、最終的には顧客満足度の向上につながります。
 このように、取り組みやすく効果が高いことから、製造業ではAI導入の最初の案件としてポピュラーになっています。

 ドライブレコーダのような、機械がどのように使われているかに関するデータを送る機器も普及してきました。 購入後の使用データを生かし、サービスを改善するアフターマーケティングも盛んになっています。

 前述したようにディープラーニングは特徴量を自律的に把握する点から、さまざまな分野への応用が期待されているのですが、一点大きな問題があります。 それはディープラーニングで学習したAIが、なぜそのような判断をしたのかが分からないということです。
 金融業業界では、個人顧客の与信枠の設定をAIで行う事例もあります。ところが与信枠の設定には人種差別や性差別などをしていないことを説明する責任があります。 そのためディープラーニング以外の判断理由を説明可能な他の機械学習の手法を使う必要があります。
 メーカーでも生産現場など説明責任を問われる業務では、ディープラーニングを利用できないケースがあるので注意が必要です。

メーカーはAIの製造者でもある

 製造業の世界でホットな話題は、スマートファクトリや自動運転ではないでしょうか。 これらを実現するための重要な考え方が、CPS(サイバーフィジカルシステム)です。
 CPSでは、製造機械や運送機械などにたくさんの小型センサを取り付けることになります。センサからの情報は、ネットワークを介して、サーバに集められます。 サーバは、収集されたデータを高速に処理して、機械側にフィードバックします。この繰り返しで自動処理が行われることになります。
 しかし、中には、サーバからのフィードバックを待たずに、機械側で処理したいケースもあります。 事故や危険を回避するような場面です。急ブレーキを踏まなくてはいけないのに、サーバからの指示を待っていては遅すぎます。
 したがって、機械側にもAIが必要です。それは多くの場合、ICチップ化されたAIです。検査機械などでは数年前から、検査業務を学習したAIをICチップ化したものが組み込まれています。
 このようにメーカーは、AIの製造者でもあるのです。

 AIチップを作るためには、膨大な学習が必要です。そのためには、スーパーコンピュータとまではいきませんが、かなりハイスペックなコンピュータが必要となります。 このようなコンピュータは発熱量が膨大で、場合によってはデータセンタの冷却スペックを超えることもあります。
 従来の空調方式では冷却できないものの、液浸冷却という、特殊な液体にコンピュータを浸す、空調方式の何十倍もの冷却能力がある方式も出てきています。
 こういった、AIを作り出す設備に関わることも押さえておくことが、製造業に従事する方には必要になってくるのかもしれません。

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