製造業で現場のデジタル化を推進するために、ファクトリーサイエンティストと呼ばれる人材の育成に取り組む企業が増加しています。製造業ではIoTやAIといったデジタル技術を活用したDXの実現が目指されていますが、ファクトリーサイエンティストはその鍵を握る存在です。
今回は、ファクトリーサイエンティストがどのような人材なのか、製造業で求められている理由、ファクトリーサイエンティストの育成方法について紹介します。デジタル人材の育成に興味のある製造業の方には、ぜひ参考にしていただきたいです。
ファクトリーサイエンティストとは、一般社団法人ファクトリーサイエンティスト協会が提唱する新しい人材像です。IoTなどのデジタル技術を活用するノウハウを持ち、かつデータに基づいた経営判断を素早く行うアシストができる人材とされています。
具体的には次の三つのスキルを持った人材を指す言葉です。
IoT機器やセンサなどの取り扱い方法を理解し、生産現場や設備から適切にデータを収集するスキルです。工場内のどこに、どのようなIoT機器やセンサを設置し、どれくらいの頻度でデータを取得すれば目的を達成できるのかを素早く理解し、実行できる能力がファクトリーサイエンティストには求められます。
収集したデータを分析したり、他のデータと組み合わせることでデータの価値を最大化するスキルです。データは収集しただけでは意味がなく、製造現場の生産性向上や経営に生かせなければ宝の持ち腐れになります。ファクトリーサイエンティストは、収集したデータを生かすノウハウを持った人材だといえるでしょう。
収集したデータから得られた情報を元に戦略を練り上げ、データを説得材料としてビジネスに活用するスキルです。データを可視化して経営層にアドバイスをしたり、現場を巻き込んで新たなシステムを構築したりするマネジメント力が、ファクトリーサイエンティストには求められます。
製造業にファクトリーサイエンティストが必要な理由は、DXを推進する上で欠かせない存在だからです。
一般社団法人ファクトリーサイエンティスト協会は2020年4月に設立された新しい協会であり、同協会の設立後にファクトリーサイエンティストという人材像が認知されてきました。
同協会ではファクトリーサイエンティストの育成講座を行っており、中小製造業の現場担当者を中心に参加者が集まっていますが、その背景には製造業でのデジタル人材不足があります。製造業がこれからの時代で競争力を高めていくためには、IoTやAIといったデジタル技術を活用したDXを実現することが重要とされています。しかし、実際にデジタル技術を導入する際には、使い方が分からなくて無駄なデータを収集していたり、適切な機器やITツールの選定ができずに導入に失敗したりするケースが多く、それらは企業内にデジタル人材が圧倒的に足りていないことが原因だと考えられます。デジタル人材不足は中小製造業で特に顕著な傾向にあり、多くの中小製造業がDXに取り組みたくても取り組めない状況にあるのです。
上述した三つのスキルを兼ね備えたファクトリーサイエンティストが一人いるだけでも、製造業でのDXは確実に進んでいくでしょう。ファクトリーサイエンティストが経営者の右腕となってデジタル技術を導入することで、中小製造業であってもDXは実現できると期待されています。
では、実際に自社でファクトリーサイエンティストを育成するにはどうすればよいのでしょうか。
まず、基礎的な学習という位置づけで、一般社団法人ファクトリーサイエンティスト協会が提供する養成講座に参加してみるのがよいでしょう。養成講座は5日間の集中学習でファクトリーサイエンティストとしての三つのスキルを身につけることができます。2021年度は4回開催予定であり、コロナ禍という事情を考慮してオンライン講座の形式で実施されています。また、養成講座の終了後もグループウェアの活用ができ、疑問や有益な情報がシェアされるコミュニティとして機能しているといいます。
しかし、真にファクトリーサイエンティストとして活躍するためには養成講座で学んだことを自社の現場で実践し、トライアンドエラーを繰り返してノウハウを蓄積していくことが不可欠です。せっかく養成講座を受講しても、その後に実践する機会がなければ意味がありません。デジタル技術の積極的な導入やDX推進プロジェクトの立ち上げなど、ファクトリーサイエンティストになることを目指す現場担当者がスキルを発揮できる環境を経営層が整える必要があるでしょう。ファクトリーサイエンティストの育成は、企業が一丸となって取り組むべき課題だといえます。
今回は、ファクトリーサイエンティストという新しい人材について紹介しました。「データエンジニアリング力」「データサイエンス力」「データマネジメント力」の三つのスキルを兼ね備えたファクトリーサイエンティストが社内に一人でもいるかどうかが、企業のこれからの競争力を大きく左右することでしょう。
自社の競争力を高めるために、製造業企業はファクトリーサイエンティストの育成に取り組んでいただきたいです。