「インダストリー4.0」に始まる製造業のDXが注目されるものの、品質検査においては未だに目視作業が残っているのが現状です。「MOQSEE」「ZENAI」は、品質検査のシステム化を阻む要因を解消するために開発されました。この二つのソリューションが品質検査でどのような貢献をしているのか、センスシングスジャパン株式会社システム事業部営業課の 井上 剛 氏、澤田 智史 氏、吉良 育秀 氏、末廣 正俊 氏に伺いました。
センスシングスジャパン株式会社は、防犯カメラやネットワークビデオレコーダーなどのセキュリティ機器や、業務用ドライブレコーダーの開発製造を得意とした会社です。高精度・高品質なカメラの開発ノウハウを活かし、カメラに関連するソリューション事業を新たに展開することになりました。
新製品の開発にあたり、同社は製造業を調査し、品質検査に注目しました。製品の特質や費用対効果の面からシステム化できていなかったり、システム化できたとしても思ったほど効果がでなかったりするケースが多く見られたためです。「弊社のもつカメラ開発の技術を組み合わせて製造業の課題を解決できるのではないかと考えました」(井上氏)。
最近では、要求される品質が高くなると同時に、不良品が発見された場合に、どの工程で混入したかを追跡できる「トレーサビリティ」も求められています。また少子高齢化により熟練検査員のノウハウを継承する検査員が不足しているというもの喫緊の課題です。「こうした課題が重要視され、今までシステム化できなかった検査部分も積極的にシステムに置き換えていこうという動きがみられます」(井上氏)。
現在センスシングスジャパン社は、製造業における外観検査について、画像検査カメラ「MOQSEE(モクシー)」とディープラーニングエンジン「ZENAI(ゼナイ)」の二つのソリューションを展開しています。まず両者にどのような違いがあるのかについて解説していただきました。
MOQSEEは、照明・4Kカメラと、検査に必要となるソフトウエアをオールインワンにした画像検査カメラです。ディスプレイ、キーボード、マウスを接続してPCレスで操作できます。
MOQSEEはパターンマッチングによって合否判定を行うカメラで、プリント基板部品実装後の外観検査や、ポカヨケ(部品の有無や組み立てミスの防止)等の用途に強みを発揮します。
ZENAIは、ディープラーニングにより複雑な外観検査が可能なソフトウエアです。MOQSEEで検出できないような異物混入や形状異常の検出を得意とし、ルールが定義できないようなあいまいな基準や、検査員の持つ伝授しにくいノウハウを取り入れることができます。
「MOQSEEと比較するとコストも高額ですし、導入にはデータを揃えるなどの準備が必要です。また検査項目によってはMOQSEEのようなパターンマッチングによる検査が向いている場合もあります」と吉良氏が語るように、同社では用途に応じて二つのソリューションを使い分けることを提案しています。
センスシングスジャパン社の強みであるカメラやAIの技術を基に、用途に応じて二つのソリューションを提供している。
次にMOQSEEにはどのような特長があるのか、さらに詳しく解説していただきました。
「MOQSEEの筐体は、軽くとてもコンパクトなため、既設ラインへの追加設置も容易です。
簡単に設置でき、必要に応じて表示灯やNASに連携可能だ。
また導入に必要な作業は、良品をマスタとして撮影し、検査エリアをマウスでドラッグして指定するだけなので、専門的なスキルがなくても設定や運用が可能です」(澤田氏)。
マスタ設定は、シンプルな手順で誰でも簡単に設定ができる。
MOQSEEは4K高画素カメラにより、大きな基板や極小部品の検査を得意としています。「微細な回路基板の検査についてはAOI(基板外観検査装置)が必要になりますが、高さのある部品が乗っているためAOIに入れることができなかった基板が、MOQSEEを用いることで検査が実現できたという例もあります」(澤田氏)。
また一般的な画像による検査では、はんだ付け前の部品など傾きが発生する部品については不良と判断してしまうケースが多くありますが、MOQSEEでは独自のアルゴリズムで傾きに追従して正しい判定を行うことができます。
「最短3秒で検査できるのもメリットの一つです。2分かけて行っていた検査が3秒で完了したという事例もあり、劇的な生産性向上が期待できます」(澤田氏)。
MOQSEEは具体的にはどのような用途に使われているのでしょうか。「実装基板の検査に利用されることが多いですね。部品の有無・極性、コネクタ間違いや逆実装、抵抗器のカラーコードといった検査は得意です」(井上氏)。
実装基板での使用例。ゴム・プラスチック製品、金属製品、アパレル製品などの検査にも応用できる。
大手パソコンメーカーでは、ノートパソコン組立工程でネジやラベルの有無などの検査にMOQSEEが採用されました。「1台のMOQSEEでノートパソコンにある多数のネジやラベルを同時に検査できました。このように広い視野で撮影して小さなエリアの検査ができるということで評価いただいています」(井上氏)。
また、ゴム・プラスチック製品やアパレル製品でも導入実績があります。「ゴム・プラスチック製品のゲート残り(ゲート部分に固化した樹脂が残る問題)も検出できます。アパレル製品ではラベルの有無や印刷文字の誤り検出にご活用いただいています」(澤田氏)。
一方ZENAIは、「AI開発パッケージ販売」と「AIを活⽤する検査システム販売」という二つの形態で提供しています。
AI開発パッケージ販売は、他の検査システムと連携し、検査の判定部分をZENAIで担う形で活用されています。「すでに導入済みの検査システムへ、判定の精度を上げる目的で、導入するケースも増えてきています」(末廣氏)。
また検査システムの提供にも対応しています。「NG排出機構と連携して、不良と判定した製品を自動で取り除くことが可能です」(吉良氏)。
検査ではカメラや照明を最適化する光学設計が重要になってきますが、センスシングスジャパンのZENAIではパッケージ販売にとどまらず、光学設計から画像判定システムまでトータルで構築を提供していることも強みとなっています。
システム構築の例。センスシングスジャパンではこのような検査システム構築を提供できるのも強みだ。
ZENAIのパッケージには、「画像分類」と「領域検出」があります。画像分類は、良品なのか不良品なのか、不良品の中でもNGなのは色なのか、大きさなのかといった分類を行います。領域検出では、不良品についてどの箇所が不良となっているのかを識別して色付けを行います。「他社とベンチマークしていますが、特にニーズが高い領域検出では、欠陥検出精度・判定速度ともに差をつけています。」(末廣氏)。
「画像分類」「領域検出」の技術によって、難易度の高い不良の検出を実現している。
ZENAIは、良品の画像と不良品の画像を学習させることで、どのようなものが不良となるのかをAIが判断できるようになります。「お客さまから画像を提供いただく場合もありますし、良品と不良品のサンプルをいただいて、当社で簡易検証サービスも提供しています」(吉良氏)。
良品の画像、不良品の画像をそれぞれ20枚程度学習できれば、当たり付けができるようになるのだそうです。「詳細な判定をするためには、さらにデータを学習させる必要がありますが、こうしたお客さまに負荷がかかる作業を手厚くサポートすることで、スムーズな導入を実現しています」(吉良氏)。
具体的にはどのような製品での検出が可能なのでしょうか。「食品に混入する髪の毛の検出や、キャップを樹脂成形する際の異物混入、溶接痕などの検出が可能です」(末廣氏)。
検出実績の代表例。その他にも医薬品容器や半導体パッケージなど幅広い業界で活用されている。
最近では、ドーナツの検査システムにZENAIが採用されました。「ドーナツのような食品は形状が定まらないためシステム化が難しく、従来はドーナツの異形状、コゲ、異物を目視で検査していました。ZENAIを導入することで、この工程を無人化することに成功しました」(吉良氏)。
また、マスクの汚れや耳紐の溶着部分の検査においてもZENAIが採用されています。「お客さまは、すでにルールベースの検査システムを導入していましたが、過検出が頻発するため、目視で再検査する必要がありました。今回ルールベースとZENAIを組み合わせたことで、精度を高めることができました」(吉良氏)。
センスシングスジャパン社では今後、カメラを起点とするソリューションをさらに進化させていくことを考えています。「将来的には、MOQSEEとZENAIの融合を考えています。ZENAIを搭載すれば、MOQSEEの可能性はさらに広がります」(井上氏)。「ZENAIのランタイムキットを利用することで、MOQSEEはもちろん、他社のカメラや検査機に搭載し付加価値を高める提案をしていきたいと考えています」(末廣氏)。
2020年8月には、カナダ発の人工知能(AI)スタートアップであるモーション・ジェスチャーズ(MG)社と提携するなど、海外スタートアップとのオープンイノベーションにも積極的に取り組んできたセンスシングスジャパン社。エッジデバイスとAIで製造業界をどのように変えていくのか、注目です。
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