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ITテクノロジーを活用した安全衛生管理の手法と実際の事例

レンテックインサイト編集部

製造業は重量のある機械や危険物を用いる関係上、全産業の中でも労働災害の発生するリスクの大きい業界です。職場で実際に労災が発生した、あるいは「発生するのでは?」とヒヤリとした経験に、ほとんどの方に覚えがあるのではないでしょうか。
衛生管理者の選任や「KY活動」や「5S活動」といった対策が多くの会社で実施されていますが、ここでご紹介したいのがIoTやAIを使って職場の安全衛生管理を行う方法です。
生産性向上やデータ活用の前に徹底しておきたい安全衛生管理。この記事では工場DXがそれに貢献してくれる事例をご紹介します。

ITテクノロジーはいかに安全衛生管理を行うのか

ITテクノロジーを使って安全衛生管理を行うとはどういうことでしょうか。

代表例として挙げられるのが、画像認識AIによる動作の分析・監視です。厚生労働省の統計によると、平成28年の安全な行動の内訳別死傷者数で最も多くの割合を締めたのが「誤った動作(29.6%)」。続くのが「その他の不安全な行為(19.2%)」でした。
誤った動作とは、物の持ちすぎや支え方の誤り、確実でないつかみ方など、身体の不適切な使い方により腰痛やケガが生じることを指します。
そこで工場内の監視カメラにより作業者の動作を分析し、誤った動きが見つかればアラートを鳴らすといった対策が効果的になります。フォークリフト、工場内設備の安全利用や、危険区域への立ち入り防止、適切な動線の測定にも画像認識による監視は効果を発揮するでしょう。

また、先の統計で9.4%を占める「運転中の機械、装置等の掃除、注油、修理、点検等」の労災を防ぐために“IoTを利用した故障の未然予知”も効果を発揮するはずです。こうした危険な行動が生じてしまう原因の一つに、突発的な故障に応急処置的に対応することが当たり前になっている状況があります。機器を常時モニタリングし、予知保全に努めることでそうしたリスクは低減できるはず。もちろん、故障自体が死傷のリスクとなるため、その対策が労災防止に効果的なのはいうまでもありません。

カメラやセンサから得られたデータを蓄積することは、「この区域は衝突事故が起こりやすいんだな」といった安全環境を整えるための情報の可視化にもつながります。センシングすべきデータは、工場内の温度、湿度や作業者の脈拍にも及びます。職場における熱中症による死傷者数は猛暑日の増加とともに近年増加傾向にあり、身体的負荷の大きい環境での作業者の体調管理も見過ごせないポイントとなっています。

安全衛生管理にITを活用するものづくり企業の2事例

経団連は2020年11月17日、『最新技術を活用した労災対策事例集』を公表しています。ここではより理解を深められるよう、その中から2社の事例をピックアップしてご紹介します。

AI画像認識技術を“気づき”を得ることに活用する日立建機株式会社

日立建機株式会社はAI画像認識技術により作業者の骨格情報を読み取り、高負荷姿勢へのアラートを画面上に表示するシステムを導入しています。2020年1月から中型油圧ショベル組み立てラインで導入されたという同システム。AIのマーキングした映像を生産技術部の担当者が確認しレポートを作成したうえで、週ごとの定例ミーティングで各管理者にディスカッションを通して気付きを得てもらうというプロセスを経ているといいます。テクノロジーだけに頼っていては安全衛生管理は不徹底になってしまいます。重要なのは事故防止のためにAIを活用とするという意識とそのための仕組みづくりなのです。

工夫を施し、ドローンを設備点検に生かすダイキン工業株式会社

ダイキン工業株式会社は、工場内設備の点検にドローンを活用することで高所作業の危険や熱中症への対策に取り組んでいます。そもそものきっかけは災害が発生した際の調査にドローンを活用すれば良いのではないかという発想だったそう。そこから、通常時の設備点検にもドローンが使えるのではないかというアイディアが生まれました。「ドローンで点検に見落としはないのか?」という疑問が浮かびますが、温度によって色の変化する塗料を用いるなど工夫を施し、コアな部分に関しては問題なく進められているといいます。「人間でないととても無理だ」とあきらめず、IT活用に向けてこれまでのやりかたをがらりと変えることで思ってもみない可能性が開かれます。

参考:最新技術を活用した労災防止対策事例集(2020年11月17日)┃一般社団法人 日本経済団体連合会

安全衛生管理の前提となる考え方

みなさんは、ハインリッヒの法則をご存じでしょうか?
労働安全の先駆者であるハインリッヒ氏が発見した、「1件の重大な事故の背後には29件の軽微な事故と300件の異常・ヒヤリハットが存在する」という経験則に基づいた法則です。

すなわち、職場の安全衛生を保つためにはヒヤリハットを見逃さず、対策を講じる仕組みを社内に設けることが重大だと言えます。そのため、常時稼働し、データを蓄積できるというIoTやAIの特長は効果的だと考えられるのです。

またそれは、先の日立建機株式会社の例のように、最終的には人間の目線で“労災を防ぐためにはどうすればいいのか”という議論と判断に取り組むことが求められるということでもあります。
ITテクノロジーを導入したからこれで安心と、人間の目による対策を怠っては本末転倒です。すでに存在する安全衛生活動に加えてITを活用するという意識を忘れないでください。

労災防止の基盤は安全衛生教育の徹底

ITテクノロジーの導入により職場の安全衛生管理を強化する手法、事例についてご紹介してまいりました。労災防止の基盤となるのは、従来から続くスローガンやマニュアル、技能・知識付与による安全衛生教育です。それでもカバーしきれないヒヤリハットを検出するにあたってAIやIoTは力を発揮してくれるでしょう。

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