検査工程は、製造業におけるAIの活用シーンとして定着しつつあります。AIによって実現した高度な画像認識技術が多くの企業で導入され、検査工程の自動化に役立っています。
この記事では、AI画像認識技術の仕組みや最新動向についてご紹介します。自社の検査工程の改善に取り組みたいと考えている製造業の方はぜひ参考にしていただきたいです。
製造業にとって検査工程は自社製品の品質を担保するために重要ですが、適切な検査をするためには作業者の手に頼らざるを得ない場合が多く、さまざまな課題を抱えていました。
作業者による検査の課題として多いのが、人員の確保です。検査工程には、実際に検査をする工数はもちろん、検査結果の集計や分析をする工数も考慮して人員を配置する必要があります。製造業全体が既に人手不足に陥っていますが、少子高齢化が進むこれからの時代ではより人員の確保に苦労することになるでしょう。
また、作業者ごとのスキルのばらつきも課題として挙げられます。ベテランと初心者では検査数に大きな差が出る場合がありますし、判断基準がバラバラになって品質が不安定になる可能性もあります。検査は感覚的な部分が多いので慣れるまで時間がかかりやすく、教育や技能継承が難しいことが原因です。
AIが活用される以前から、画像認識技術を導入して検査工程の自動化に取り組む企業は多くありました。しかし従来の技術では、単純で分かりやすい不良を検出することはできるものの、熟練の作業者の経験を必要とするような複雑な判断は難しい場合が多いのが課題です。そのため、一部で作業者の手による二重検査を実施しているなど、完全な自動化には至らないケースがあります。
さらに、従来の技術では検査対象や検査項目を細かく設定する必要があり、機能追加や調整に手間がかかっていました。そのため、多品種への横展開や検査項目の変更に柔軟に対応できず、用途が限定されてしまうという課題もありました。
多くの企業が、自社の検査工程に対してここで挙げたような課題を感じていると思います。しかし、AIによって進化した画像認識技術であれば、検査工程の長年の課題を解消してくれると期待されています。
AI画像認識技術の仕組みを知る前に、AIがどうやって学習するのかを改めてみてみましょう。
近年のAIには機械学習の一種であるディープラーニング(深層学習)という手法がよく用いられています。ディープラーニングは人の神経細胞の仕組みを模したニューラルネットワークというシステムを基にしており、インプットした学習用データから膨大な条件のシミュレーションを繰り返して最適なアウトプットを導き出します。学習用データを与え続けることで、シミュレーションの条件を半自動的に最適化するシステムになっているため、どんどんアウトプットの質が向上するのです。
従来の画像認識技術では、人が経験と知識を基に不具合の規則性を見つけ出し、数値化するプロセスが必要でした。しかし、AIの場合は学習用データを与えれば規則性を自ら見つけていくことができますし、学習用データが多ければ多いほど精度も上がっていきます。
AIを活用することで、複雑な良否判定にも対応できるとともに、設定変更の手間が大幅に削減されるので多品種展開や要件変更がしやすくなります。
AIは実際にどのような流れで画像認識を行っているのでしょうか。一般的には、次の4ステップで検査が行われています。
カメラを使って検査対象の画像を取得します。画像の質が検査精度に大きく影響するため、検査対象に合ったカメラの性能や撮影条件を整えることが求められます。
必要に応じて、取得した画像を加工します。目的は良否判定をしやすくするためであり、エッジ検出・明るさ調整・ノイズ除去といったさまざまな方法で前処理を行います。
前処理された画像を確認して、どこに、どのような異常があるかを自動で特定します。
形、大きさ、色といった判定ロジックに基づいてAIが良否判定を行います。判定ロジックは検査を行う度に最適化されるため、継続的に精度が向上していきます。
AIと聞くと、「使いこなすのが難しい」や「高価」というイメージがあると思います。しかし、AI画像認識技術はこの数年間でさらに進化しており、そういったイメージを払拭する技術やサービスが登場しています。
例えば、製造業での外観検査に必要な機能をパッケージ化したソリューションがAIベンダーから提供されています。AIやプログラミングといった専門知識がない人でも、マウス操作などの直感的な操作のみでAIモデルを作成できるため、AIを導入するハードルが下がっていくでしょう。
また、小型の検査機器内にAIを搭載したエッジAIと呼ばれるサービスが登場しています。大規模なシステム投資が必要なく、低価格でピンポイントに検査工程を自動化できるとして、注目されています。初期投資を抑えたサブスクリプションモデルのサービスもあるため、中小企業でのAI導入も進むことでしょう。
AIが学習する仕組みも新たな方式が活用されています。検査工程でAIを活用する場合、不良品の学習データを入力してAIを学習させる必要がありましたが、不良品がめったに発生しない製造現場では大量の学習データを準備するのが難しいというのが課題でした。しかし、良品の学習データだけでAIを学習させて不良品を判別する「良品学習」という方法が開発されたことで、AIの活用シーンが広がっています。
AI画像認識技術を導入して検査工程を自動化する企業が増加しています。検査は重要な工程ではあるものの、なるべく手間をかけずに実施したいというのが本音であり、これからも多くの企業でAIの導入が進むと予想できます。
また、製造業の中では、検査工程は比較的AIを導入しやすい業務の一つであり、AIの仕組みを理解し、他の業務に広げていくための第一歩としても適しています。自社の検査工程の在り方に課題を感じている製造業の方は、AIの導入を検討してみてはいかがでしょうか。