安価・自作で工場DXに取り組みたい……!
そんなときに役立つツールとして「Raspberry Pi(ラズベリーパイ、ラズパイ)」の名前を聞いたことのある製造業従事者の方々は少なくないはずです。
本記事では製造業でラズベリーパイを活用する方法とポイントについて解説します。
まずはRaspberry Pi(ラズパイ)とは何かについておさらいしておきましょう。
Raspberry Piは数百~数千円で購入可能なマイクロコンピューターで、もともとはイギリスのラズベリーパイ財団によってプログラミング教育用に開発されました。しかし、その安価・小型にもかかわらず、モーターの駆動やロボットへの搭載、IoT開発などさまざまな電子工作に用いることができる利点が注目され、製造業でも「身の丈IoT」(コストをかけず無理なく始めるIoT)の用途でさかんに活用されています。
ちなみに、ラズパイと並んで電子工作で多用されるマイコンボードに、イタリア発の「Arduino」(アルデュイーノ)があり、両者は搭載されている機能の多様性や耐久性において異なります。一般に行動な計算や複雑な処理にはラズパイが、シンプルでリアルタイム性の求められる処理にはアルデュイーノが適していると言われています。
それでは、Raspberry Piが実際に製造業DXでどのように活用されるのかを見ていきましょう。
──工場内の設備の稼働状況をセンシングし、稼働状況可視化やデータの蓄積に用いる。
IoTの基本ともいえる仕組みの実現に、ラズパイは適しています。例えば、以下のようなラズパイ×センサーの活用事例が報告されています。
また、容易に非接触型のデータ通信を可能にすることで近年注目されているRFIDと、ラズパイを組み合わせ、製品のトレーサビリティ(追跡可能性)を実現するシステムも構築可能です。
専用カメラやUSBカメラとラズパイを接続することで監視カメラシステムを構築したり、画像認識システムを構築したりすることが可能になります。ある企業では天井に取り付けたウェブカメラで作業データを収集。作業者の様子を映像で分析することで最適な割り当てやマニュアル作成に活用しました。マスクの装着状況を検知するシステムや防犯システムなど、ラズパイ×カメラの可能性は無限大です。
画像認識システム構築というと、一見難しそうに感じられます。しかし、近年はOpenCVやTensorFlowといったオープンソースの(無償で公開されている)画像処理ライブラリが存在し、それらを使って画像処理システムを構築した手順も検索すれば多数出てくるため、取り組みやすくなっています。
ラズパイが製造業に貢献する意外と知られていない事例が、OCR(光学文字認識)との組み合わせです。画像から文字を読み取りテキスト化するOCRを活用し、手書きで作成した生産日報や帳票をラズパイで読み取り電子化します。機械学習で精度を高めることで、思わぬところからデータを蓄積できる道が開けます。
こちらも「Tesseract(テッセラクト)」というオープンソースソフトウエアが存在し、事例を見ながらDIYで実現することができます。
最後に、「さっそくRaspberry Piを使ってみたい」という方に向けて、知っておくべき注意点をご紹介します。
ラズパイが通信機器である以上、どこかでセキュリティが脅かされる可能性は存在しています。2019年6月にはNASAのジェット推進研究所のIT機器に無許可接続されていたラズパイがサイバー攻撃を受け、機密データが盗み出されたことが報道されました。このような問題に対処するには、そもそも組織ネットワークにセキュリティホールを作らないようなIT機器の利用ルールを設けるとともに、ユーザー設定やパスワードの変更、追加認証の導入といった対策の徹底が求められます。
ラズパイはリーズナブルかつ、思っている以上に高性能なマイクロコンピューターですが、もともとは教育用に作られたものであり、耐環境性が保証されたものではありません。過電流や低電圧による不具合や、動作基準に合わない湿度・温度下での破損はつきまとうことを覚えておきましょう。SDカードが破損してデータが失われた、といったトラブルも聞かれます。
産業機器分野での活用が増えたことを受けて熱暴走対策や技術サポートが付属した産業用ラズパイも販売されているため、そちらの利用を検討するのも一つの手段です。
Raspberry Pi(ラズパイ)を製造業で利用するにあたって知っておきたい基礎知識をご紹介しました。産業利用での成功事例も増えてきており、年々注目を集めるラズパイ。安価に手に入るため、まずは用途に合ったモデルを一台入手し、手を動かして初心者向けのシステムを作ってみるのも良いでしょう。トライアンドエラーでコストをかけず、理想のシステムを一から作り上げられるのが、「身の丈IoT」の醍醐味です。