ERPにAIアプリケーションを取り込めるようになってきました。これにより、ERP導入プロジェクトの進め方が大きく変わる可能性があります。一体どのように変わるのでしょうか。
ERPとは、“Enterprise Resources Planning”という名前の通り、本来は企業内の経営リソース(ヒト・モノ・カネ・情報)を最適配分する計画(考え方)を意味します。そのためには企業の基幹業務といわれる、生産管理・販売管理・購買管理・在庫管理・会計・人事給与などを統合する必要があります。ここから統合基幹業務ソフトウエアをERPパッケージ、あるいは単にERPと呼ぶようになりました。本稿でも基幹業務ソフトウエアの意味で「ERP」という言葉を使います。
ERP導入プロジェクトの進め方は細かくいえば、パッケージソフトの数だけあります。パッケージごとに、ベンダが提供する導入メソドロジ(方法論)があるからです。しかし大きな流れは変わりません。「企画 → 要件定義 → 実装 → 運用・サービス」という順に進めることが一般的です。このうち企画から実装までが、導入プロジェクトにあたります。
導入プロジェクトにおける各プロセスの実施項目には以下のようなものがあります。
項目の数だけ見てもお分かりいただけるように、導入に必要な項目の中でも要件定義プロセスに最も労力がかかります。ですが、この要件定義プロセスの部分が、今後大幅に削減される可能性があるのです。
要件定義とは、簡単に言えば、システムの機能や入出力データ、他システムとのインターフェース、性能目標などを決定する作業です。要件定義が必要な理由は、コンピュータリソース(CPU、メモリ、記憶装置、ネットワーク帯域など)の必要量を見積もるためと、作成するプログラム(ERPならばアドオン)の仕様を決めるためです。
このうちコンピュータリソースの見積もりについては、クラウドの普及で以前よりもずっと簡単になりました。以前は次のリプレースまでの期間(通常5年)に必要な量をかなり正確に見積もる必要がありました。ところが今はワークロード(システムの負荷)が当初見積もりを上回ったとしても、それをクラウドに振り分けるということができるようになったからです。ERPベンダもクラウド利用がしやすいライセンス体系を用意するようになりました。
しかしプログラムの仕様決めについては、大きな変化はありませんでした。
ところが2018年10月に、Oracleが「Oracle ERP Cloud」というクラウドサービス基盤において、新たにAIを活用した機能を追加したと発表しました。
またSAPは「SAP Leonardo」というブランドにIoT、機械学習、アナリティクスなどの技術要素群をまとめ、同社のERP製品群と連携させる戦略を打ち出しました。
Microsoftも同様に、同社のDynamics 365とAIを連携させるDynamics 365 AIの提供を開始しています。このように、ERPにAIアプリケーションを取り込めるようになり、以前必要だった要件定義をAIが手助けしてくれるということで、要件定義の手法が大きく変わる可能性があるのです。
AIアプリケーションと従来のアプリケーションでは、開発に大きな違いがあります。
一つは、AIアプリケーション開発ではAIにやらせたいことを決めて、あとは学習データを集めて、それを基に学習させればアプリケーションができあがるということです。従来は、ルールや条件などをしっかり決めて、人間がその通りにプログラミングする必要がありました。
もう一つは、チャットボットのような自然言語をベースにした対話型のアプリケーションを作ることができるということです。従来も対話型のアプリケーションはありましたが、対話の流れもプログラミングする必要があったため、かなり限定されたことしかできませんでした。AIでも現時点では、人間のような柔軟な対応は難しいのですが、それでもできることの範囲は年々広がっています。
こうしたAIアプリケーションの特性から言えることは、プログラムの仕様を決めるための要件定義にかかる工数が以前と比べて少なくなるということです。やりたいことを明確にし、詳細まで要件を決めていなくても、対話の中で吸収させることもできます。
もちろん全ての業務でAIを必要とはしないでしょう。しかし、多くの業務でAIを活用して効率化できる可能性があります。そのため、要件定義にかかる工数が減り、ERP導入にかかる時間が大幅に短縮されるのではないでしょうか。