3Dプリンターにおいて、フィラメントは物体を形成するための材料として使われます。フィラメントの素材は、PLA樹脂、ABS樹脂、PETG樹脂などがあり、素材の違いによってその特性も大きく変わります。本記事では、これらの主要なフィラメントの特性について解説します。
3Dプリンターの材料であるフィラメントには、加熱すると柔らかくなる熱可塑性樹脂を用います。加熱したフィラメントをノズルから押し出し、任意の形状になるよう積層して造形物を作ります。フィラメントはリールに巻かれた状態で用意し、3Dプリンターにはリールごとセットして使用します。
2009年に熱溶解積層法(FDM法)の特許期間が満了したことから、3Dプリンターの低価格化が進みました。それに伴い、材料メーカーが新しい種類のフィラメントを次々と発表し、現在ではさまざまな種類が市場に出回っています。
リールの形状になるよう加工したり、熱可塑性を持たせたりするため、フィラメントには樹脂以外の成分が混ぜられることもあります。その結果、フィラメントは元の樹脂とは異なる物性を持ち、フィラメントの配合は材料メーカーによって異なります。フィラメントの素材の違いによって、強度や耐熱性などの特性が大きく異なることもあるため、選定の際はご注意ください。
3Dプリンターで使用されるフィラメントとして代表的な材料であるPLA樹脂、ABS樹脂、PETG樹脂について解説します。扱いやすさではPLA樹脂、品質を求めるならABS樹脂、耐衝撃性と印刷の安定性ではPETG樹脂がおすすめです。
PLA樹脂(ポリ乳酸)は植物由来の熱可逆性プラスチック素材であり、地球温暖化や石油資源枯渇といった環境問題への対策のため開発されました。この樹脂は乳酸を主成分としており、ABS樹脂に比べると耐久性や耐熱性は劣りますが、製法の改良によって問題を克服しつつあります。廃棄後は二酸化炭素や水などに分解できる生分解性を有するため、多くの製品に使用されるようになりました。
PLA樹脂のフィラメントはFDM方式の3Dプリンターに広く対応しており、低温での印刷が可能で、扱いやすい特性を持っています。ただし、PLA樹脂は粘りがなく硬いため、表面の塗装や、やすりがけなどの後加工が難しいことがデメリットです。
PLA樹脂をベースとした特殊フィラメントも開発されており、異なる素材を混合することで新たな質感を作り出せます。例えば、木の質感を表現するために木材粉末を混ぜたり、ブロンズの質感を表現するため銅粉を混ぜ合わせたりしたフィラメントが開発されています。
ABS樹脂は、アクリロニトリル、ブタジエンゴム、スチレンという三つの成分を組み合わせた熱可塑性プラスチックで、この3成分の頭文字を取ってABSと名付けられました。これらの成分比を変えることで、さまざまな特性を持ったABS樹脂を製造できます。例えば、アクリロニトリル成分が多いとABS樹脂は耐薬品性、強度、弾性率が高まります。ブタジエンゴム成分が多い場合は衝撃強度が向上し、スチレン成分が多いと成形性が向上します。
ABS樹脂は3Dプリンターのフィラメント材料として人気があり、PLA樹脂と同様にFDM方式で使用されます。耐久性、耐熱性、耐衝撃性、耐薬品性、引張強度、靭性・曲げ疲労性などの特性に優れ、高品質の製品を製造するのに役立ちます。
ただし、ABSフィラメントを用いた造形には適切な温度管理が必要で、直射日光に弱いことがデメリットです。反りや臭いも問題となることがあるためご注意ください。もし屋外使用する場合は、ブタジエンゴムの代わりにアクリルゴムを原料とするASA樹脂を用いるのもよいでしょう。
PETG樹脂は、PET樹脂から派生した熱可塑性ポリエステルです。PET樹脂はエチレングリコールとテレフタル酸を重縮合させて生成され、透明性、靭性、剛性、耐熱性に優れるためペットボトルなどの材料として広く使われています。PETG樹脂は、PET樹脂中のエチレングリコールの一部をシクロエヘキサンジメタノールで置き換えて生成され、PET樹脂の透明性に加えて衝撃に対する強度も併せ持っています。
3Dプリンター用のPETG樹脂は、FDM方式に対応したフィラメント材料として利用されています。PLA樹脂やABS樹脂の優れた点を組み合わせた性質を持っており、高い耐衝撃性と印刷の安定性を兼ね備えています。ただし、表面が傷つきやすいことや直射日光に弱いという特性があることがデメリットです。またフィラメントの吸湿状態やノズル温度によっては、印刷中に糸引きと呼ばれる成形不良が発生する可能性があります。
3Dプリンター用のフィラメントには、本記事で紹介したもの以外にもさまざまな種類があります。素材によって、強度や柔軟性、見た目などの特性が異なり、製品の仕上がりにも大きく影響します。3Dプリンターを最大限に活用するには、各フィラメントの長所と短所を理解した上で適切なものを選定するとよいでしょう。