3Dプリント技術を使って人体を再生する技術について、事例をピックアップして解説します。
3Dプリンターは金属やコンクリートなどの無機物だけでなく、食物などの有機物の生成においても目覚ましい成果をもたらしています。中でも人間の身体を生成するバイオ3Dプリント技術は、医療分野における貢献が大いに期待されており、今後の技術開発次第では医学を大きく進歩させる可能性を秘めています。
バイオ3Dプリンターは、一般的な3Dプリンターで使用される樹脂や金属ではなく、有機物を噴出して形を作る3Dプリンターです。 バイオ3Dプリンターにおいては細胞組織のレベルで極めて本物に忠実に再現できる技術も登場しており、近年急速に発展しているテクノロジーの一つとして注目を集めています。
SF世界のような、なくなった腕を本物のような質感で再現するだけでなく、神経のレベルで再生させたり、臓器を3Dプリンターで生成し、移植することができたりといった運用方法が期待されている技術です。
遠い未来を予見させる技術であるバイオ3Dプリンターですが、すでにこのテクノロジーを使った人体の再生や再現に関する取り組みに成功した事例が複数登場しています。
ここでは下記の事例について解説します。
京大病院と株式会社サイフューズは、損傷した末梢神経の新しい治療法としてバイオ3Dプリンターを使ったアプローチを提唱し、開発に成功しました。
神経導管をバイオ3Dプリンターで生成し、これを移植することで、神経の再生を実現しています。移植にあたっての安全性や有効性は十分に確認できたとしており、移植に成功した事例として評価されています。
南アフリカのプレトリア大学では、人体で最も小さいとされる耳小骨を構成する、ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨の人工骨を、3Dプリンターを使ってチタンで作製し、男性に移植することに成功しました。
移植された患者は自動車事故によって中耳を負傷した男性でしたが、この移植が成功したことにより、今後は移植技術が先天的な耳の欠損や中耳障害を解消する上での選択肢となり得るとして、大いに注目を集めています。
山形大学と株式会社人間は、ゲル3Dプリント技術を使って赤ちゃんの頬を再現し、新しい印刷物の可能性について研究を進めています。 赤ちゃんの写真を印刷したパックに頬を再現したゲルを封入することで、赤ちゃんのころの柔らかさを記録するという取り組みです。視覚的にしか残せない乳児期の様子を、3Dプリントによって触覚でも記録できるようになれば、新しいメディアとしての可能性が開けるでしょう。
細胞レベルで人体を再現することができるバイオ3Dプリンターの技術は、今後の医療を大きく変えていく可能性があります。現在は皮膚や神経、骨の再生が主流ですが、今後は臓器の3Dプリントが可能になることも予測でき、ガンなどの難病にも対抗することができるようになるかもしれません。
まだまだ研究が始まったばかりの領域ではあるものの、バイオ3Dプリンターが医療の主流となる可能性は十分にあるでしょう。