3Dプリンター Insight

3Dプリンターでものづくりの情報化は新しいステージへ~NTTデータエンジニアリングシステムズ社訪問レポート~

レンテックインサイト編集部

3Dプリンター Insight 3Dプリンターでものづくりの情報化は新しいステージへ~NTTデータエンジニアリングシステムズ社訪問レポート~

NTTデータエンジニアリングシステムズ社は、1997年より3Dプリンター事業に参入し、豊富なノウハウを生かしてものづくりに新たな価値を提供しています。 3Dプリンターの普及により、ものづくり業界がどのように変化したのか、今後の展望も含めてアディティブ・マニュファクチャリング事業部 営業部 第一営業課 課長 北田幸雄氏、第二営業課 竹内典子氏に伺いました。

ものづくりの可能性を拡げるため3Dプリンター事業へ参入

NTTデータエンジニアリングシステムズ社は、1977年に日立造船社の電算部が独立して設立されました。 同社はもともと船の設計CAD(コンピュータ支援設計)を開発していた経験をもとに、1982年には国産初のCAD/CAM(コンピュータを利用した設計や生産手法)「GRADE-G」を開発。 その過程で3次元データを大量に蓄積していました。 「この資産とノウハウは他のものづくりに役立つのではないかということで、技術検討チームが海外に視察に行って技術を探していたのですが、そこで出会ったのがEOS社の3Dプリンターでした」(北田氏)。

EOS社は1989年に設立された3Dプリンターメーカーです。 同社はAM(Additive Manufacturing:材料を積層することで造形する手法)のソリューションプロバイダとして30年の歴史があります。 NTTデータエンジニアリングシステムズ社では、1997年に同社の3Dプリンター「EOSINT」(現製品名EOS)の販売を開始し、20年以上にわたり装置販売から技術サポートまで行ってきました。

EOS社の製品は粉末積層の方式を採用しています。 粉末積層とは、粉末状の材料を撒いてレーザーで溶融して固め、何千層にも積層していく方式で、金属造形ではメインストリームとなっています。 「特にEOS社は金属の造形機として世界でトップのシェアがあり、EOS社の3Dプリンターは金属造形の代名詞となっています。」(竹内氏)

EOS社の製品ラインアップは、大きく分けてプラスチック材料向け「樹脂3Dプリンター」と金属材料向け「金属3Dプリンター」があり、大型機・中型機・小型機それぞれ3タイプが提供されています。 「中型機は歴史が長く、技術的には一番成熟しています。」(竹内氏)

複雑な形状の最終製品の造形を実現する「EOS M 290」

そこで一番販売台数が多い機種として紹介していただいたのが、金属造形積層のスタンダード「EOS M 290」です。

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(図:EOS M 290)

EOS M 290は幅広い素材に対応し、試作から量産まで対応しています。

EOS M 290は最新のファイバレーザーにより、軽合金、鋼鉄類から超合金、複合材まで多岐にわたる材料を溶融して造形することができます。 フォーカス径を小さくすると高い細部の形状再現性が得られ、複雑な形状でも3Dデータからダイレクトに金属製品が造形可能です。

EOS M 290はR&Dや小ロット生産だけでなく、量産にも使用されています。最近では航空宇宙業界を中心として、量産化を目指して3Dプリンターを導入する傾向にあると北田氏は説明します。 「とはいえ単なる部品の置き換えをするケースは少ないですね。ほとんどのお客さまは、より付加価値の高い部品を作るという目的で導入されています。」(北田氏)

単純に既存部品を置き換えるだけではコストが増大してしまいますが、周辺の部品を統合して一つの部品として一度に造形すれば、組立や加工の工程を省略できるので、コストダウンや納期の短縮が期待できます。 また部品統合により溶接が不要になると部品の組付け性・耐久性も高くなります。

また軽量化も大きなテーマです。 「航空機の部品の場合は、軽量化を実現すると機体が軽くなって燃費が良くなります。 燃料代は航空会社のコストの大きな割合を占めているため、たとえ部品自体の価格が高くなったとしても、航空会社にはメリットが大きいのです。 航空宇宙分野では、軽量化に取り組むために3Dプリンターを導入する企業が多いですね」(竹内氏)

EOS M 290は造形領域が250mm×250mm×325mmと大きさも手ごろで、同社において販売台数が多い機種です。 量産を行いたいお客さま向けに2年前に登場したEOS M 400-4は、造形領域が400mm×400mm×400mmと大きくなり、4つのレーザーにより安定した生産を実現します。

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(図:EOS M 290 で造形した機内で使われるパーティションの構造体)

3Dプリンターで造形することにより、45%近くの軽量化に成功しました。

イノベーションに向けて、数々の挑戦を続けるEOS Mシリーズ

今回は最先端の事例として、ロケット「アリアン6」に使用された部品を紹介していただきました。

「アリアン6」は欧州宇宙機関(ESA)が開発する人工衛星打ち上げ用ロケットの最新バージョンです。 アリアン6で使われているロケットエンジンの燃料噴射の部品をEOS Mシリーズで製造しました。試作開発にEOS M 290を使用し、製品製造にEOS M 400-4を使用しています。

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(Source:EOS GmbH)

燃料噴射の部品です。従来は248個の部品から構成されていたが、
3Dプリンターを利用することにより1部品として製造できるようになりました。

以前、燃料噴射の部品は銅製のスリーブに8000個以上の十字穴をあけて、そこから流れる水素と酸素を混合するために122個の燃料噴射の部品を削って下の台に一つ一つろう付けされていました。このように複雑な加工工程が多いため、製造期間が長くコストも高いという課題がありました。

今回、部品を一つに統合しEOS Mシリーズで造形したところ、3カ月かかっていた製造期間が35時間に短縮され、コストを約50%削減できました。

豊富な知見と手厚いサポート体制でものづくりを支援

NTTデータエンジニアリングシステムズ社では、大阪にAMデザインラボ(技術開発拠点)を持ち、最新の金属・樹脂造形機、検査・後処理機器などを備えています。 また、サポート体制を国内に保有しており、資格を持ったエンジニアがサポートするほか、コールセンターでの対応も行っています。 「当社は、主要部品と材料を在庫しており、都度海外より取り寄せる必要がないため、対応の速さで喜ばれています。」(北田氏)。

「最近では期待されるレベルが高くなってきており、装置を販売するだけでなく、安定した造形プロセスの開発や、 トポロジ最適化(最適な構造にするための設計支援)、熱変形解析(造形中の歪)といった周辺のソリューションも含めてのご相談が多くなっています。」(竹内氏)

「当社は、設立当初よりものづくりの会社様と長くお付き合いしており、お客さまを大切にする文化が根付いています。」と語る北田氏。 上流から技術サポートまで一貫した支援でものづくりを支えています。

3Dプリンターが拓くものづくりの未来

「今後は業界全体でFA(Factory Automation)化が進むでしょう」と竹内氏は展望します。 「3Dプリンターの製造ライン化が進み、前後の工程と自動で連携するようになると思います」(竹内氏)。

北田氏は、FA化に向けてソフトウエアの面での統合化が進むと見ています。 「3Dプリンター単体の生産状況をモニタリングするソフトウエアは開発されていますが、ほかのシステムとの連携はこれからですね。 3DプリンターをCADや生産管理などの基幹システムと連携し、統合して管理することで、劇的に生産性が向上するでしょう」(北田氏)。

顧客IoT本格化の時代を迎え、生産現場における3Dプリンターの存在感も高まる中、ものづくりを支える同社の挑戦は続きます。

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