アディティブ・マニュファクチャリングとは積層加工のことであり、産業用途に活用できるとして注目を集めています。本記事では、アディティブ・マニュファクチャリングの概要および従来の加工技術と比較しての特長、主な製造方式について解説します。
アディティブ・マニュファクチャリング(以下AM)は、3Dモデルのデータを基に材料を積層して造形物を作る3Dプリント技術のことで、「付加製造」とも呼ばれています。
AMは対応する設備と材料、3Dモデルのデータがあれば造形が可能であり、2020年にJIS規格B9441として規格化もされています。
これまでは樹脂によるAMが一般的で、産業用途だけでなく一般家庭向けの3Dプリンターも普及してきました。近年は金属によるAMが注目を集めており、さまざまな業界の企業が導入を進めています。
従来の金属加工は素材に圧力や熱を加える成型加工、素材から不要な部分を削り取る除去加工が一般的でした。金属の積層加工が可能になると、複雑な形状の造形や多品種少量生産などでメリットがあり、自動車やエネルギー、医療などの分野で活用されています。
従来の金属加工と比べながらAMの特長をご紹介します。アディティブ・マニュファクチャリングではこれまで製作できなかったようなデザインが実現でき、少ない製作費で多品種少量生産が可能です。さらに、コストを抑えながらも製作時間が短縮できるというメリットもあります。
AMでは、従来の加工方法では実現できないような複雑な形状や細かい形状が製作できます。従来の金属加工では、型に金属を流し込む鋳造、刃物で金属を削る切削といった加工方法がよく用いられますが、造形できる形状がある程度制限されてしまうというデメリットがありました。例えば、内部に空間を持つ中空構造や格子状のラティス構造などは製作が困難なものの代表例です。AMを用いればこのような従来困難であった構造も実現できます。さらに不要な部分の素材を削って軽量化しつつ、剛性や強度を高めるといった工夫も可能です。
ほかの加工方法と異なり、AMでは造形物ごとに型や治具を用意する必要がありません。3Dモデルに応じて加工ができ、形状に依らず同じ単価で生産できるため、多品種少量生産に向いています。大量に生産する必要のない試作品や、オーダーメイド品の製作に利用できます。少品種大量生産も可能ですが、その場合は従来の加工方法の方がコストを下げられる場合も多く、製作物に応じて加工方法を検討するとよいでしょう。
AMは造形するのに必要な最低限の量の材料のみ使用するため、製作時間が短くなります。一方で素材から材料を削り出す切削加工では、形状によっては材料の廃棄分が大きく、製作時間も長くなるでしょう。また鋳造や切削の場合には、形状が複雑な製品は複数の部品による組立品として製作せざるを得ない場合もありました。しかしAMを利用すれば複数部品を一体化する設計が可能となり、コストや重量が抑えられます。また、AMは3Dモデルのデータを読み込めば人間が細かく手を動かす必要もないため、人件費も低くできるでしょう。開発中の製品の試作品を低コストかつ短期間で造形するには、AMがおすすめです。
金属のAMに用いられる代表的な方式について解説します。方式に応じて製作物の精度や大きさ、製作時間などに違いがあります。
PBF方式(PBF:Powder Bed Fusion)は、パウダーベッドフュージョン方式や粉末床溶融結合方式と呼ばれています。金属の粉末を敷き詰めた粉末床にレーザーを照射してエネルギーを加え、造形する部分の金属を溶融・凝固させる方式で、AMの中でも最もよく利用される方式で、高精度で小型の部品の製作が得意です。しかし造形に時間がかかり、粉末の除去が必要となることが欠点です。
DED方式は、デポジション方式やパウダーノズル方式とも呼ばれています。金属の粉末とレーザーを同時に照射し、溶融した金属を積層させて製作します。短時間で造形が可能で、大型製品の製作や既存製品の補修が得意です。しかし製作できる形状に制限があり、精度および強度が低めであることが欠点です。
BJT方式(バインダージェット方式)は結合剤噴射方式とも呼ばれています。金属の粉末を敷き詰めた粉末床にバインダーと呼ばれる液状の結合剤を噴射し、造形する部分の金属を結合させて製作します。短時間で造形が可能で、微細な小型製品の製作が得意です。しかしバインダーの除去のため脱脂や焼結といった工程が必要で、精度が低いことが欠点です。
AMによる金属加工では、鋳造や切削のような従来の加工方法では実現できない形状が可能となります。多品種少量生産に向いていることから、大量に生産する必要のない試作品の製作やオーダーメイド品の製作に適しています。AMの加工方式によって得意とする製品が異なるため、想定している製作物に合わせて検討するとよいでしょう。