住宅のような大型な製造物に、3Dプリンター技術を適用する事例が登場しつつあります。これまでも建設物の部材生産や補修工事に3Dプリンターが使われることはありましたが、住宅全体に3Dプリンターが使われるケースはごくわずかです。
この記事では、国内外の事例を参考にしながら、3Dプリンター住宅の運用メリットや課題について解説します。
3Dプリント技術の進化は著しく、従来は手のひらサイズのデータを出力するのが限界とされてきましたが、今では家一軒を丸ごとプリントアウトする技術が登場しています。
住宅需要は一定数あるものの、輸入木材の高騰の影響もあり、日本でのマイホームの建築はハードルが高くなっています。
そのため今後は一戸建ての単価の高騰が危惧されており、買い手が減る可能性があるとされてきましたが、3Dプリンター住宅がこの問題を解決できるかもしれません。
それどころか3Dプリンター住宅の技術が向上すれば、マイホームを持つことのハードルが下がり、住宅市場が活性化する可能性にも期待できるでしょう。
3Dプリンター住宅が従来の建築手法と比べて高く評価されている理由として、下記の点が挙げられます。順に詳細を解説します。
3Dプリンター住宅の材料は、主にバイオセメントやコンクリートなどになるため、木材を仕入れる必要がありません。
多くの住宅建築には木材の存在が不可欠ですが、上述の通り木材は景気の影響を受けやすいという問題を抱えています。
3Dプリンターであれば木材市場の影響を回避しながら家を建てられるということで、家の価格が市場に左右されることがなくなります。
木造建築ではない3Dプリンター住宅は、そもそも輸送費や人件費が一般的な住宅の建築に比べて安くできるため、建築コストを抑えて家を建てられる点も評価されています。
3Dプリンターがあれば、少ない予算でも多くの家を建てられ、多くの人にマイホームを提供できます。
3Dプリンター住宅は、建築業務の大部分をプリンターが自動でこなしてくれるので、人手が必要ないというメリットもあります。技術を持った職人に頼ることなく、質の高い家を短期間で手に入れられるので人材不足の煽りを受けることはありません。
3Dプリンターを使えば、曲線が多用されるような建築物も、簡単に建てられます。
従来の工法では直線的な建物でなければデザインや建築に多くのコストがかかるため、複雑な避けるべき形状とされてきましたが、3Dプリンター住宅はその点も自由にデザイン可能となり、従来工法に比べて安価に建築できます。
ここで、実際に取り組まれている3Dプリンター住宅の事例について解説します。すでに国内外の事例が登場しており、日本でも近い将来、一般向けに提供が開始される見込みです。
セレンディクス株式会社が挑戦しているのは、球体状の3Dプリンターハウス「Sphere(スフィア)」の提供です。最新モデルの場合、施工開始から23時間12分で家一軒を完成させており、驚異的なスピードでの建築を実現しました。
2023年春までに、約500万円での1LDK一戸建て住宅の販売を目指しています。
3Dプリンターで住宅を建設する米アイコン・テクノロジーは、壁のみを3Dプリンターで印刷し、ガラスなどは既存のものを流用する工法を確立しました。
この技術を使えば、同時に3戸の家を建設できるなど、既存の工法よりも圧倒的なスピードで建築が可能となっており、すでに一般向けの提供も行われています。
3Dプリンター住宅は驚きのスピードとコストパフォーマンスの建築を実現しますが、同時にリスクも抱えています。日本は自然災害大国であるため、これらの脅威にも耐えうるほどの強度が必要であり、また国が定めている建築基準法へ準拠しなければ、そもそも建設許可をもらうことも困難です。
日本で3Dプリンター住宅を建築する場合、台風や地震にも耐えうる強度の確保は必ず必要です。
たとえ屋根があっても台風で飛ばされたり、地震で倒壊してしまったりするようでは長期にわたって住むことができず、決してコストパフォーマンスの良い買い物とはならないためです。
また、3Dプリンター住宅のように鉄骨や鉄筋、コンクリートなどの指定建築材料を使わない建築物は、安全性を証明するために個別に国土交通大臣の認定が必要です。
今後法改正の可能性もあるものの、この基準に準ずる安全性を確保できなければ、日本における3Dプリンター住宅の普及は難しいでしょう。
災害リスクや法律の問題はあるものの、3Dプリンター建築は圧倒的な業務効率化をもたらしてくれます。
日本では販売に向けた準備が進んでおり、アメリカではすでに販売が開始されています。明日からすぐに3Dプリンターでの住宅建築をスタートする、ということは難しいものの、法整備や技術革新が進めば、この技術は間違いなく次世代建築のスタンダードとなれるでしょう。