サグラダ・ファミリアの大幅な工期短縮に貢献した新技術の一つが3Dプリンターです。
サグラダ・ファミリアはスペインのバルセロナで建設中のカトリック教会の集会施設としての役割を持つ建築物です。アントニ・ガウディの作品としてその名を知られています。1882年に着工され、その構造の複雑さから着工当初は完成まで300年はかかると言われていました。しかし、現在では工期は大幅に短縮されており、2026年に完成予定となっています。
本記事では、サグラダ・ファミリアの建設に時間がかかる理由をはじめ、その工期短縮において3Dプリンターが果たす役割や、工期短縮に貢献しているその他の新技術についても解説します。
サグラダ・ファミリアは構造が複雑な上、図面などの資料がほとんど残されていないために建設には膨大な時間がかかっています。1936年にはスペイン内戦という大きな悲劇が起こり、この時に図面など建築資料の多くが失われてしまったことも工期が長くなってしまっている理由の一つです。現在では残されたわずかな資料から図面を復元しながら建設がなされており、1980年代でも完成までにあと200年かかると言われていました。
サグラダ・ファミリアの内部には巨大な空間がありますが、この空間を支えるのが玄武岩や花崗岩、斑岩といった石材で造られた支柱です。支柱は重く不安定な石材を積み上げて造る組積造という方式で造られており、引張応力が作用してしまうと支柱が倒れ崩壊してしまう危険性があります。これを避けるためにガウディは逆さ吊り模型を使用して引張応力がかからないように設計を行いました。
逆さ吊り模型は模型のパーツをワイヤーで固定し、逆さに吊るして作られます。すると、パーツが重力により引っ張られ、安定した位置でワイヤーが静止します。この状態を上下逆さまにして再現すると引張応力が取り除かれた状態になり安定した建築物ができます。これにより、サグラダ・ファミリアは巨大なだけではなく、内部空間を広く取り、懸垂線などの複雑な曲線を持ち、さらに尖塔を多く作ることができるのです。逆さ吊り模型による設計には膨大な時間がかかり、この模型作りだけで10年の月日が費やされたと言われています。壁が完成すると、壁面には一面には彫刻家たちにより聖書をモチーフとした彫刻が施されます。
着工当時はクレーンやトラックなどの重機類は現代よりも遥かに性能が低かったこともあり工事に時間がかかったのでは、近年ではこれらの重機類や建築方法が進歩したから大幅な工期短縮ができたのだろう、と思われる方も多いかもしれません。しかし、1980年代の段階でも完成まであと200年はかかると言われていたのです。
1980年頃には世界中で高層ビルなどの巨大な建築物が容易に建てられていたので、この時代でも時間がかかるということは、サグラダ・ファミリアが単純な資材の組み上げではなく、支柱やアーチなどが複雑に組み入った構造であることを物語っています。
一方、ここ数十年で100年以上の工期短縮が行われており、技術の進歩が著しいことが分かります。この工期短縮の原動力になったのが3Dプリンターの出現なのです。
3Dプリンターを用いることでサグラダ・ファミリアの工期を短縮することに成功していますが、これは3Dプリンターで小型模型が簡単に作れるからです。
3Dプリンターで模型を作成する際には、まず3DCADで各パーツの設計をする必要があります。設計されたパーツは3Dプリンターで出力され、各パーツが完成します。これらのパーツをプラモデルのように組み合わせることでサグラダ・ファミリアの小型模型が完成します。
さらに、3DCADで設計された図面に基づき構造解析を実施すれば、事前に安全性が確認でき、あとは石材を原寸大に加工して組み上げれば良いので工期を大幅に短縮することができます。
サグラダ・ファミリアの地下には3Dプリンターで作られた模型も展示されており、3Dプリンターの貢献度の高さを物語っています。
3DプリンターのほかにCNC工作機械や3D構造解析技術の登場もサグラダ・ファミリアの工期短縮に貢献しています。
サグラダ・ファミリアは巨大な石の建造物です。設計を間違えると崩壊の危険性があるため、あらかじめ柱が倒れないように応力の計算を行う必要があります。この計算は構造解析ソフトを用いると直ちに確認でき、余計な応力がかかっている箇所があれば設計を見直すという形で、実際に模型を作るより効率改善できます。
さらに、石材の加工はCNCと呼ばれるコンピュータ数値制御により工作機械が自動的に行います。つまり、人間の手を介さずに、設計図面さえあれば昼夜問わずに加工を行うことができ、自動的にパーツが完成します。CNCを用いれば、複雑な形状でも容易に加工できるため、この技術も工期の大幅短縮に貢献しています。
これらの新技術に共通する点は、設計図面が基になっているという点です。図面さえあれば解析や出力、加工ができるため、工期短縮に最も貢献した技術は3Dで図面が作成できる3DCADであるといえるのかもしれません。
サグラダ・ファミリアは当初は2200年頃に完成すると言われていましたが、現在では2026年度に完成予定となっています。この工期短縮を可能にした技術の一つが3Dプリンターであり、ほかにもCNCを用いた機械加工、構造解析シミュレーションなどの新技術が工期短縮に大きく貢献しています。これらに共通した技術は3DCADですので、設計ができると建築や製造、数値解析などさまざまな分野で活躍できる可能性が広がります。