3Dプリンター Insight

食文化を大きく変えてしまうかもしれない「3Dフードプリンタ」

レンテックインサイト編集部

フードプリンタと3Dフードプリンタはどう違う!?

食品業界では以前から、食べ物に文字や絵、写真などを描くフードプリンタが活躍しています。 それらのフードプリンタは、例えば家族や友人、知人の誕生日などの記念日にケーキやクッキーに写真をプリントすることや、 イベントで配布するために企業のロゴが印刷されたチョコレートを作成するなどの用途で利用されています。 このような従来型のフードプリンタには、ケーキなどの食品に直接印刷する大型のタイプもあれば、ケーキに載せるためのデンプンやグリセリン、セルロースなどを主成分とした可食シートに印刷する、 一般的なプリンタに近い小型のタイプもあります。
ここで紹介する3Dフードプリンタとは、そういった平面に食材を印刷するプリンタとは異なり、ペースト状にした食材などを使って食品そのものを立体的に造形する、 いわゆる3Dプリンターです。現在普及している工業用3Dプリンターにも、光造形方式からインクジェット方式、粉末焼結積層方式、熱溶解積層方式などさまざまなタイプがあり、 造形に利用される材料もABSやPLAといった樹脂系から金属系まで、さまざまなものが使われるようになってきました。 3Dフードプリンタも、従来の3Dプリンターと同じように材料をシリンダにセットして、混ぜ合わせたり、積層したりすることによって立体的に食品を造形します。 ただし、その材料は樹脂や金属から、砂糖や小麦粉などの粉末、裏ごしした肉や野菜、穀物のペーストなどの食材に変わります。 また、3Dフードプリンタで作る食品は、人の手や型を使った方法では困難な、複雑で精巧な形状にすることもできます。

日本で3Dフードプリンタが注目されるようになったのは、2015年に東京ビッグサイトで開催された「三井食品フードショー 2015」で一般展示されたことがきっかけといわれています。 このイベントではXYZプリンティングジャパン社が、当時開発中だった3Dフードプリンタ「XYZ Food Printer」を参考出展し、来場者の前で和菓子を出力するデモンストレーションを行いました。 当時のXYZプリンティングジャパン社の資料によると、「XYZ Food Printer」による食品の最大造形サイズは150×200×150mmで積層ピッチは0.8~3.2mmとなっていて、 材料としては小麦粉とミルクを練ったものや和菓子の餡、チョコレートなどを想定していました。USBでパソコンに接続して、造形データを送ることも可能になっています。

3Dフードプリンタの普及で何が起きるのか!?

食品業界では2015年以前から、3Dフードプリンタが話題になっていました。 2013年には、宇宙飛行士が宇宙空間でも新鮮でおいしいものが食べられるようにと、NASAがSystems and Materials Research社に3Dフードプリンタの開発を支援する出資を行っています。 3Dフードプリンタで造形できる食品には、チョコレートや練り菓子、デザートなどそのまま食べられるものから、出力する前後に加熱などの調理を施された料理まであります。 例えば、Natural Machines社の3Dフードプリンタ「Foodini」は、食品を造形した後に加熱処理を施すことでパスタ料理などを作ることが可能です。 2017年には工業製品用の3Dプリンターを開発している3D Systems社が、ベーカリー原料や関連サービスを提供するCSM Bakery Solutions社と、 3Dフードプリンタや材料の商品化を目指して共同開発を行うことを発表しました。今後、食品市場や外食市場での3Dフードプリンタの投入が、徐々に本格化していくことになるかもしれません。

3Dフードプリンタは、食材を切る、調味料を加える、などといった従来の調理方法の概念を大きく変える存在です。 将来、“さまざまな素材や食材のカートリッジ”をプリンタにセットするだけで、誰でも自宅で好きな料理を「出力」できるようになるなど、 技術革新と普及が進んだ場合、レストランや高級店でしかお目にかかれないような料理も、3Dフードプリンタで再現できる時代が来るかもしれません。
また、3Dフードプリンタでは、豆腐や野菜、海藻など、使用する材料の組み合わせでさまざまな栄養素を持つ料理も作れます。 これによって噛む力が弱くなった高齢者にも、柔らかく、栄養価が高い料理が提供できるようになります。 実際に、噛む力に対応した食品を3Dフードプリンタによって製造するプロジェクト「自立高齢者を増やすための革新的食品提供システム」が、 科学技術振興機構(JST)などの資金提供によって日本とスウェーデンの大学や企業で進められています。

その他にも、発展途上国で3Dフードプリンタの使用が進めば、現地で収穫される米や、大豆、小麦、とうもろこしなどの食材で大量に食糧が製造でき、食糧危機の緩和に繋がることも考えられます。 本当においしい料理が作れる3Dフードプリンタの普及には、まだまだ時間が必要な状況ですが、「電子レンジ」が急速に家庭に浸透していったように、 3Dフードプリンタが“一家に一台”置かれるという日がやってくる可能性も考えられるのではないでしょうか。

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