医療業界は、3Dプリンターの活用が特に期待されている業界の一つです。3Dプリンターを活用して医療器具を製作する取り組みがすでに多方面で始まっており、実績も出ています。
本記事では、医療業界で3Dプリンターが活用されている理由や具体的な活用事例をご紹介します。
医療業界は3Dプリンターと相性がよく、他の業界よりも3Dプリンターの活用が進んでいます。株式会社グローバルインフォメーションのレポートによると、3Dプリンターで製作した医療器具の世界市場規模は、2021年の24億米ドルから、2026年には51億米ドルまで成長すると予測されています。同レポートではその要因の一つとして、医療業界でデジタル化が進んでおり、3Dプリンターを活用したダイレクトデジタルマニュファクチャリングが広まっていることを挙げました。特に欧米の医療業界は3Dプリンターを積極的に活用する傾向にあり、日本と比較して豊富な活用事例があります。
では、なぜ医療業界と3Dプリンターは相性がよいのでしょうか。主な理由として、次の5つが挙げられます。
一般的に3Dプリンターは、単価が高いもの、製作数が少ないもの、オーダーメイド品のニーズが大きいものとの相性が良いとされています。これらはまさしく医療業界で使用されるものの特徴でもあり、3Dプリンターのメリットが最大限に得られるといえるでしょう。
医療業界ではさまざまな視点から3Dプリンターの活用が進んでおり、注目を集めています。活用の方向性としては、研究開発・教育の段階で使用するものの製作から、実際の治療で使用する医療器具の製作まで多種多様であり、どれも3Dプリンターの技術がなければ実現が困難だった内容です。
ここでは、医療業界で特に注目されている3Dプリンター活用事例として、シミュレーション用モデルの製作、インプラントの製作、オーダーメイドの医療器具の製作の三つをご紹介します。
3Dプリンターによって臓器や骨などのモデルを製作し、症状の診断や治療方法の検討、手術のシミュレーションを行うという用途です。人体は個人差が大きいため、MRIやCTなどの画像データだけでは医師が正確に患者の体内の状態を把握しきれないケースがあります。場合によっては、手術開始後に当初の計画を変更しなければならず、患者や医師の負担になっていました。
しかし、画像データから立体的なモデルを製作して患者の臓器や骨を再現すれば、より正確な診断や手術のシミュレーションを行えます。モデル製作用の3Dプリンターの中には、フルカラーでの着色や硬さを自由に調整できる機種があるため、より本物に近い質感の再現も可能です。
3Dプリンターで製作したモデルは、医師間の情報共有や教育、患者へのインフォームドコンセント(医療行為の十分な説明と同意)などにも活用されます。
患者の体内に埋め込む人工臓器や人工関節、人工骨、義歯、ペースメーカーといったインプラントを3Dプリンターで製作できます。特に歯科医療では実際の治療に採用されているケースが多く、歯型のデータを基に従来の半分以下のコストで高精度な入れ歯を製作している事例があります。
個々の患者に合わせたインプラントを従来の工法で製作すると、オーダーメイド品になり大きなコストがかかります。しかし、3Dプリンターで製作すればその課題を解消できます。
最新の研究では、生きた細胞でできた人工臓器や人工血管をバイオ3Dプリンターで製作し、再生医療に役立てる取り組みも進んでいます。この治療法が本格的に実用化されれば、病気やケガに悩んでいる多くの人が救われることになるかもしれません。
医療の現場では、医師や患者に合わせてカスタマイズした医療器具を作成することがよくありますが、そういった場合にも3Dプリンターが役立ちます。例えば、手術する医師が使いやすいオーダーメイドの手術器具や、個々の患者の要望に応えた義肢・リハビリ用具などを低コストかつ素早く製作することが可能です。
医療器具はどうしてもオーダーメイド性が強くなってしまうため、大きなコストがかかりやすくなります。また、義肢などは成長に合わせて何度も作り直さなくてはならない場合があり、患者の負担が大きくなりがちです。こういった課題を解消すべく、3Dプリンターの積極的な活用が進められています。
3Dプリンターと相性のよい医療業界では、積極的に活用が進められています。今後は再生医療といったより高度な領域での活用も期待されており、3Dプリンターの可能性をさらに広げていくことでしょう。
ほかの業界における3Dプリンターの活用方法を模索する上でも、医療業界での活用事例が参考になります。3Dプリンターの最先端ともいえる、医療業界の動向に注目していきたいものです。