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金属3Dプリンターでより緻密に、より高付加価値に。TruPrintが実現する次世代のものづくりの可能性

レンテックインサイト編集部

3Dプリンター Insight 金属3Dプリンターでより緻密に、より高付加価値に。TruPrintが実現する次世代のものづくりの可能性

写真左から、レーザ事業部 部長 バスティアン ベッカー 氏、代表取締役社長 フォルカー ヤコブセン 氏、レーザ事業部 3Dプリンティング&LMD課 岡 寛幸 氏

2025年には2500億円の市場に成長するといわれる金属3Dプリンター。金属3D造形の技術は切削や鋳造のような従来工法では実現が難しいデザイン性、機能性をもたらします。トルンプ株式会社のTruPrintシリーズは、同社が金属加工機とレーザのノウハウをつぎ込んだ次世代の金属3Dプリンターで、自動車や航空宇宙など、幅広い業界で活用されています。新たなものづくりの幕を開けたTruPrintシリーズについて、トルンプ株式会社 レーザ事業部 3Dプリンティング&LMD課の岡 寛幸氏に伺いました。

工作機械とレーザ技術に長い歴史

トルンプ(TRUMPF)株式会社は、ドイツ南西部のメルセデスベンツやポルシェが本社を構えるシュトゥットガルト近郊に本社を構えています。創業は1923年、日本の現地法人設立が1977年と歴史ある企業で、世界で70を超える拠点を展開しています。売上高研究開発費比率は毎年10%を超えており、最新技術へ意欲的に投資をしています。

「当社を古くから知るお客さまは、当社といえば工作機械メーカーとイメージしますし、最近ではレーザ技術を提供する会社としても認知されるようになりました」と岡氏が語る通り、同社では工作機械、レーザ技術が事業の柱となっています。

以前から金属の切断や溶接などのレーザ加工の需要は多くあります。レーザ加工はエネルギー密度が高いことから、高効率で高速な加工が可能なのが特徴です。レーザの種類によっては、「着火しやすいマッチ棒の先端にも精密な加工が可能」となり、自由度が高くさまざまな分野に活用できると注目されています。また、ステンレスやチタンといった切削加工がしにくい難削材を加工できるというメリットもあります。

今後も進化する技術という期待から同社はレーザ技術に大きな投資をしており、「レーザ発振器を使う工作機械を含めると、レーザ関連製品は8割を占めます」(岡氏)。

レーザ加工では、金属が持つレーザビームの吸収率の特性が関係してきます。一般的な基本波のレーザではステンレスなどの鉄系材料は加工できますが、銅のような金属ではレーザビームを反射してしまい、加工が困難でした。

そこで同社では基本波の約半分の波長をもつグリーンレーザ光の発振器「TruDiskグリーンレーザシリーズ」を提供しています。グリーンレーザ光により、反射を抑えた状態での加工が可能になります。「銅は電気伝導率が高いため電子部品に使用されています。当社のこのグリーンレーザの技術を3Dプリンターにも適用させることにより、電子部品や小型の精密機械製造の分野での3Dプリンター活用も今後ますます拡大していくでしょう」(岡氏)。

このように、同社がこれまで培ってきた工作機械やレーザの技術を応用し、金属3DプリンターTruPrintシリーズが開発されました。ドイツの国際研究機関フラウンホーファー研究所と提携して研究開発を行い、技術を磨いて製品開発の道筋を作りました。

緻密な造形で高付加価値化を実現「TruPrintシリーズ」

現在同社が展開しているのが、金属3Dプリンター「TruPrintシリーズ」です。

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「TruPrint 1000」は造形エリアがコンパクトなため、少量粉末材料での造形が可能だ。

「TruPrint 1000」「TruPrint 2000」「TruPrint 3000」「TruPrint 5000」があり、「エントリーモデル、ハイエンドモデルという分け方ではなく、造形サイズや緻密性によってお選びいただけます」(岡氏)。

造形エリア 最大レーザ出力 予熱
TruPrint 1000 Ø 100 × H 100 mm オプション:造形エリアの縮小 200W オプション:マルチレーザ(2本 × 200 W)
TruPrint 2000 Ø 200 × H 200 mm 300W オプション:マルチレーザ(2本 × 300 W) 200 ℃
TruPrint 3000 Ø 300 × H 400 mm 500 W オプション:マルチレーザ(2本 × 500 W) 200 ℃
TruPrint 5000 Ø 300 × H 400 mm 3本 × 500 W 200 ℃ オプション:500 ℃

例えばTruPrint 1000はレーザビーム径が細い(55μm又は30µm)ことから、微細な加工、緻密な加工が可能です。TruPrint 5000では、標準装備の3本レーザで同時に照射するため造形スピードが上がります。「生産性は2倍~2.5倍向上します」(岡氏)。

また、予熱機能もレーザで熱処理加工をする上で大切な機能です。チタンや炭素量の多い素材は溶融後に急激に冷却すると歪みやクラックが発生するケースがあるため、予熱で暖めて冷却スピードを緩やかにする必要があります。「TruPrint 5000ではオプションで予熱の温度を500 °Cに上げることができます。これには当社の工作機のノウハウが生かされており、業界でも随一のスペックと自負しています」(岡氏)。

また、銅のような高反射性材料を造形可能なグリーンレーザ発振器「TruDisk1020」を接続した「TruPrint 1000 Green Edition」も提供しています。

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「TruPrint 1000」にグリーンレーザ発振器を接続することで、銅、銅合金または貴金属などの高反射性材料の3Dプリントが可能となる。

TruPrintシリーズのこだわりについて教えていただきました。

円形の造形エリア

一般的に造形エリアは四角くなっていますが、TruPrintシリーズは円形になっています。四角形の造形エリアは造形物の数を増やしたり大きさを増大したりできるメリットがある一方で、角があることで粉末密度の均一性や、造形チャンバーの気密性を保つことに課題があります。「実用性や造形品質を優先するためにTruPrintシリーズではあえて円形シリンダーを採用しています」(岡氏)。

各種モニターシステム

造形中に問題がないかをCCDカメラで撮影し、タブレットからモニタリングすることができます。また画像認識システムによって、造形の不具合を検知するシステムを提供しています。

粉体マネジメントシステム

造形後、造形シリンダーの中に残存する粉体を取り除く必要がありますが、チャンバー内は予熱機能により高温になっています。そこでTruPrintシリーズでは造形シリンダーごと取り外して粉体を除去することができるようになっており、冷めるのを待つ必要がありません。
またレーザで金属を溶融する工程で、煙が発生してレーザビームが乱反射するという問題があります。そのため、酸化防止の目的でチャンバー内雰囲気を不活性ガスで置換する必要があり、TruPrintシリーズでは流体工学を駆使して最適な置換を実現しています。「単に置換をしようとすると、粉体は軽いので飛び散ってしまいます。そうした問題が起こらないような絶妙な気流を作り出すことにこだわっています」(岡氏)。

また同社ではアフターサービスにも力を入れています。日本法人に在籍する従業員の半数以上がサービス担当者となっており、サービス提供範囲も全国をカバーしています。同社ではグローバルでのトラブル事例をデータとして蓄積し、問題が発生した際にAIで類似の問題を検索することで、迅速に問題解決する仕組みを備えています。

なお、TruPrint 1000のテスト造形、ベンチマーク造形などについては、同社の他、オリックス・レンテックへ依頼することでも対応が可能です。

最終製品にも採用されているTruPrintシリーズの事例

優れた造形力を持つTruPrintシリーズの事例を紹介していただきました。

車に搭載されるエンジンのピストンを造形(ポルシェ)

一般的にはピストンは鋳造や鍛造で作られますが、「ポルシェ 911(Porsche 911)」の高性能モデルである「ポルシェ 911 GT2 RS(Porsche 911 GT2 RS)」の高性能ピストン(オプション)は、TruPrintで製造されています。約10%の軽量化と高い負荷に耐える強度を両立させるよう形状を最適化しただけでなく、負荷がかかる部分だけ冷却する冷却ダクトも備えています。「切削機械で最終仕上げをしているにもかかわらずコストバランスもとれており、製造プロセスの効率化と高付加価値化を実現した事例です」(岡氏)。

タイヤの溝部のパターンの造形(コンチネンタル)

タイヤメーカーのコンチネンタルでは、タイヤの溝部のパターンの造形にTruPrintを採用しています。タイヤメーカーでは性能を向上するためにモデルによってタイヤの溝部のパターンを変えますが、通常の工法でパターンごとに金型を用意するとコストも時間もかかってしまいます。そこで溝の部分のみを金属3Dプリンターで造形しています。

上記の事例についてご興味があれば下記よりお気軽にお問合せください。
事例内容についてメーカーより詳細なご説明も可能です。
お問い合わせはこちらから

3Dプリンターでものづくりに革命を起こすためのポイントとは

ガートナー社の定義する最新テクノロジーの成長曲線「ハイプ・サイクル」によると、一過性のブームを経て技術が磨かれ、実用性が高まるとようやく安定的な市場が形成され、成長期に入ります。ガートナー社では、成長曲線に各テクノロジーをマッピングして毎年公開しています。

3Dプリンターについては、ハイプ・サイクルで成長期に入る数少ないテクノロジーの一つです。「ただ、日本の市場はグローバルではまだ5%程度にすぎません。アメリカ・中国に大きく後れを取っています」と岡氏が解説するように、日本では3Dプリンターの活用が諸外国と比較して進んでいない状況と言えます。

3Dプリンターは造形サイズが限られ、造形の際のサポート材の除去が手作業になるといった制約があります。従来のものづくりにこだわる日本においてこうした制約が普及していない理由の一つと言えるかもしれませんが、岡氏は「従来の工法では実現が困難な付加価値を作ることが普及のポイントだと考えています」と解説します。

そのためには単なる従来工法からの置き換えではなく、3Dプリンターの制約を理解した上で、付加価値を持たせるデザインをする「DfAM(Design for Additive Manufacturing)」の考え方が大切になってきます。一例として紹介していただいたのが、航空・宇宙の設計品の事例です。

3Dプリンター Insight 金属3Dプリンターでより緻密に、より高付加価値に。TruPrintが実現する次世代のものづくりの可能性

トルンプ社提供資料より
55%の軽量化、コンポーネントの剛性向上にも成功した。

航空・宇宙の分野では軽量化の重要性が高く、1mgでも軽くするためにしのぎを削っています。軽量化でき剛性を満たすトポロジーの最適化(工学的な条件で最適な材料の密度分布を導き出す構造最適化手法)を行った結果、写真のような複雑な形状になりました。こうした形状は従来の工法では実現が困難ですが、3Dプリンターであれば造形が可能です。

また、サプライチェーン、プロセスチェーンの最適化という観点からも3Dプリンターは可能性を秘めていると岡氏は解説します。「切削、鋳造、プレスや溶接といった各工程を、3Dプリンターではほぼワンプロセスで行うことが可能です。サプライチェーンを単純化、プロセスチェーンを圧縮できることから、リードタイムの削減やコストの最適化が期待でき、更にはコロナ禍で活躍したフェイスシールドの製造など、有事の際もオンデマンドで対応することが期待されます。」(岡氏)。

慢性的な人手不足に悩まされる製造業においては、職人技の継承が大きな課題となっています。「3Dプリンターで職人技をデジタル化できれば、人手不足・後継者不足という社会的課題を解決し、人によるばらつきを防ぐソリューションになると考えています」(岡氏)。

製造現場で認められる実用性を追求

今後TruPrintシリーズでは、造形サイズの拡大や生産性を向上するニーズに対応していく予定です。「ただあくまでも実用性が最優先です。やみくもにスペックを追求するのではなく、製造現場で実用に耐える3Dプリンターでありたいと考えています」と岡氏は力をこめます。

またこれからは諸外国の事例の後追いではなく、日本発で3Dプリンターを活用した新たな取り組みが生まれ、イノベーションを先導する支援ができればと岡氏は考えています。「メーカーの枠を超えて3Dプリンターの世界を確立し、ものづくり大国としてイノベーションを活性化させたいですね」と締めくくりました。

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